モノローグ(桜井)

     ◯


 ちょっと寝坊したせいだからか、それともアッチはまだ夜だからか? 車窓から射し込む朝日がキツい、ちょっとクラクラする。もちろん週末使って海外観光に行って来た訳じゃない、往復時間を考えたら週末程度じゃのんびり観光なんて出来やしない。ちょっとした用事を済ませる為だから仕方なかったけど、流石に無理が大きかったみたい、久々に疲れた。無理するくらいなら、いっそ学校休んだって差し支えない。一日だけ欠席したって問題ない。けどそういう甘ったれた考えは大嫌いだ。

 ウチのご近所の美味しいコーヒー喫茶さんも、連休だのお盆だのとか言ってアルバイトが勝手に都合良く休むから……と、溜め息ついてた。風光明媚な田舎の観光地辺りのお店なんて平日がむしろ暇なのに、いざ稼ぎ時に仕事を休む馬鹿とはこの事。学校の連中も、ちょっと我慢出来る程度の軽い頭痛や腹痛ってだけで、すぐ早退する。あの柳でさえ、風邪気味でも学校は絶対休まないってのに。

 学校で柳がダルそうにしていたので、大丈夫?と、声を掛けた時があった。事情を聞いたら、柳のお母さんは体温計で熱が三十八度以上なら、風邪だから学校は休みなさいと言う。でも三十八度以下なら単なるくしゃみ鼻水程度の風邪気味、三十七度台の微熱程度で病人面なんて大袈裟もいいとこ、登校出来ない訳がないと。これ聞いて思わず、(柳じゃないけど)そりゃ凄いわ……って、思わず口から漏らしてしまった。単に甘やかさないって言うんじゃなく、そう簡単に優しい手を差し伸べない、安い情に流されもしない、そんな冷徹さ感じたから。鉄の女だ、別の意味でのサッチャー的な畏怖感。ま、三十七度九分だった柳には、ホントお気の毒に、としか言えなかった。せめて三十七度五分の前後からにしてあげてもとは思うけど……我が子にこれでは血も涙もない。

 柳を見ていると、たまにホント不憫な性分だと思ってしまうが、そのクセに以外とタフだし、積極的といった性格とは違うけど、どこか楽観的で、起き上がり小法師みたいな奴。そこが好き。……違う違う、その好きじゃないけど。まあ、そこがいいのよ、私も負けてられるか、あの柳なんかに、と熱くなれるから。無理を押し通してこそ、偉大な事を成し得るのだから……


 ……あれ?


 たった今、車のドアガラス越しに、一瞬、ウチの高校の生徒を見た気がした。よく分からない……あっという間に通り過ぎたので。

 ただ、その後バックミラーを見つめたまま、変な事を思った。


 アレは誰だったのか。それだけ。それだけなんだけど、姿がハッキリしなかったからモヤモヤする。アレは何だったのか、つまり疑問。疑問を持っているのは当然私。じゃあ疑問に対する答えは? 当然あの橋の上にいた誰か。それだけ。

 ……ただ、疑問に対する答え合わせもしないまま、次のページに勝手に進んでしまったら、その先のページを総理解出来なくなるかも?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る