第6話 手合わせ3
僕は体勢を立て直して、ゴライアスに向かい合う。
互いに剣を構えて向き合う。
動きは互いに止まっているようで、剣先は細かく動き相手の正中線を捉えようと探り合う。
(隙がない……なら)
僕は近くで鳥が飛び立ち、バサ!! と音がした時にワザとそちらの方を向いた。
そう、これはワザと。
こちらに隙ができたと判断し敵が攻めてきたところにカウンターを打つ。
しかし……。
「……」
ゴライアスは動かず。
先ほどと同じ姿勢で微動だにしない。
「ふふ、そんな露骨な釣りに引っかかるかよ」
ゴライアスは口元をニヤつかせながらそう言った。
(なるほど、野生動物相手のようにいかない……)
野生動物や野生モンスターは基本的に本能で動く生き物だ。
ゴライアス曰く「露骨」なカウンターでも、ほとんどの場合釣られてくれる。
(初めての対人戦……学ぶことが多い)
そんなことを思っていると。
「いいのか? 今のフェイントの間に間合いを変えたぞ?」
「!?」
よく見れば僅か半足ほどだがゴライアスが前に出ていた。
僕はゴライアスのリーチと踏み込みの大きさを計算して「一歩ではギリギリ届かない間合い」をとっていた。
その間合いが崩されたことになる。
……よって。
「ふっ!!」
鋭い踏み込みからの一撃が飛んでくる。
(受け止める? いや)
力と体格の差は歴然。
また吹っ飛ばされるだろう。
そして今度は吹っ飛ばされて体勢が崩れた瞬間をこの男は狙ってくるに違いない。
……ならば。
僕は剣同士がぶつかる瞬間、ほとんどの力を瞬時に脱力した。
「!?」
相手からすれば驚くだろう。
硬い鉄の板と肉の塊だと思って振り下ろした対象が、急に空中に浮いている紙のようになったのだから。
当然力の入れどころを逸らされる。
そうなれば相手の力もこちらの思うままだ。
僕は剣を相手の力を誘導するように動かす。
ゴライアスの筋骨隆々の体が宙に舞った。
そしてこちらはその隙を見逃す気はない。
剣を握り直し、適正な力を入れて。
「ふっ!!」
空中にいるゴライアスに向けて剣を振った。
手加減などするのは一瞬忘れてしまった、いつもの癖で急所を目掛けて放った一撃である。
一閃。
空気を鋭く切り裂く僕の剣の音が響いた。
……しかし、運が良いのか悪いのか。
「あっぶねー」
背後にあった木の枝にゴライアスは捕まっていた。
本来空中では身動きが取れないが、枝を掴んで体を動かし回避したということだろう。
ズズ、と僕の剣を受けた切断面で木が斜めに滑り落ちて倒れていく。
「おっと」
ゴライアスは巨体を軽々と片手で持ち上げて、飛ぶようにして倒れる木から離脱する。
□□
ゴライアスは着地すると、すぐにアレンの方を見た。
その目は驚きに満ちている。
(……マジかよ。『本当にあのなまくらで切りやがった』)
正直言って、あの岩を切った話は半分以上疑っていた。
だが実際にかなり太い木をこうして切って見せたのだ。
しかも。
(めちゃくちゃ切り口滑らかじゃねえか)
いやまあ、それでも木と岩じゃ切る難易度が全然違うわけだが。
それでもゴライアスがあの剣で、木を両断することができるかと言われれば……。
(まあ、無理だな。力任せに叩き折るとかならできるけど)
つまりは、剣を使って「切断する技術」は目の前のエルフの方が圧倒的に上ということになる。
なにせ、このエルフ。単純な筋力はゴライアスの五分の一もない。
「くくく」
ゴライアスは強いやつが好きだ。
ただ、最近はあまり骨のあるやつと戦う機会がなかった。
同じ剣の道を歩むものとして、このエルフがどれだけの修練を積んできたがか分かる。
「いいぞ……ほんとにたまんねえよ」
そう言って心底嬉しそうに笑うのだった。
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