ゾンビ養成所
ボウガ
第1話
ゾンビを隔離し、汚染や元となる細菌を殺し、安全に捕食できる場所があった。人
間が人間を食べることで起こる様々な病気や障害も取り除いた。
そこに旅人Bが現れた。女性で様々な武器をもっていた。警備の兵士に取り囲まれたが、その装備の扱い様から、知能ある人間だとわかり、施設の中に入れられた。
すぐにその施設を仕切っている男、リーダーのAと仲良くなった。夜中二人は、ゾンビを殺菌し、人肉を害のない栄養素に分解するための施設を上から眺めて、二人だけの会話を楽しんだ。
「どうしてあなたはここをでないの?いくつもの施設をみてきたけれど、いくら厳重な施設でも、すぐにだめになったわ」
「僕は、ここでゾンビに抵抗しているんだ、強烈な接触、粘膜感染がほとんどだから」
「でも、それじゃ間に合わない、数が多すぎるわ……もう陸地のほとんどがゾンビであふれている」
Aも遠い目をしてうなずいた。そして、タブレットに映像を移した。きっとAの移送経路だったのだろう。崩壊した都市や、暴徒と化した人々、ゾンビが暴徒を食らう様子が映像にうつされた。・
「私には、旅が最も安全だよ」
「1年前、ここで起きた暴動を知らないからだよ、この施設はこの周辺の施設、そして、ネットが使える人々に守られている」
「暴動?」
「この施設こそが、ゾンビのウイルスをつくった犯人だとデマ情報が拡散され、大勢の人が大挙して訪れたんだ、君は知らないだろうが、インターネットはまだ使える」
「じゃあ、あなたは英雄ね」
「そう、まさにそれだ、僕はそうでない証拠を提示し、人々を納得させた、僕は真実の傀儡になった、だが人々は僕に希望を抱いた、すでに人々が団結しあう意味を、この荒廃した世界で見出せないから、けれど、それこそが重要だと思わないか?いずれ滅びてもいいんだ、嫌な滅び方をしなければ、それに君にだけ真実をおしえてあげよう……」
その半年後、Bは、新しい入居者にAから受けた説明をする、その時、この時のAとの会話も話題にあげた。新しい入居者はBに尋ねた。
「あなた、Aさんを愛しているのね、ここに残っているもの」
「そうなのかな」
「そうでなければ何故残ったというの?」
「私は、あらゆる場所を訪ねた、けれどまともに生活できる空間はほぼなかった、ここは特別……だって、ここには半端な偽善などないもの、きっと人間性を捨てなければいけないこの世界では、偽りを共有できる場所こそが、楽園なのよ」
Bは、思い出していた。Aが自分にだけ語った事実。この場所が、本当にゾンビウイルスの研究施設だったという事を。彼がやり遂げたのは、施設の一部を改良して新しいシステムを構築し、歴史を偽装しただけ。大勢の人が、明確な証拠を見せずに情報を拡散したが、彼の方が口が達者、それで、彼は英雄になったのだった。
Bはそのことについてこう考える。
「それでも、不確かな情報を頼りに街を破壊したり、原因を恨んで破壊するより、よっぽど人間的だった、そして、理性的だった、完全じゃないけど、最悪よりましな英雄だから、そんなものでしょ、リーダーって」
ゾンビ養成所 ボウガ @yumieimaru
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