転生そして大森林掌握編
Prologue
「諸君、ついに我々が人類種達に姿を見せる時が来た。」
大陸有数の大森林の地下。地下深くにある遺跡を開拓して造り上げられた地下帝国とも呼べる空間の王の間と呼ばれる場所で銀髪の少女は集まる者たち━━━獣人に鬼人、蜘蛛や蟻など魔物や魔人達に向けてそう宣言した。
「今日、この日より森に隣接するヒューマンの王国━━━メリクリア王国への襲撃を始まりに表舞台へと上がり、人類種国家に宣戦布告をする。
抵抗してくる者が現れるだろうが一切容赦しなくていい。する必要はない。
各々が得意とするやり方で出会った者全てを溶かし、燃やし、貫き、切り刻んでくれても構わない。
この大陸の真の支配者は私なのだと。それを君たちの力で持って証明してくれ━━━━━これはお願いではないよ。私達が動けばそうなるだろうという確信だ。
そして、思い知らせてやるといい。キミ達魔物、魔人の本当の恐ろしさを」
集まった者たちは何も言わない。けれどその瞳にはしっかりとした強い意志を感じる。主たる自分の言葉が彼らに刻まれたのを確信し、少女は彼らが開けた道を堂々と歩き、振り返った。
「さあ、行こうか・・・・・・この世界を壊しに」
彼女は『魔王』。今、魔王に率いられた軍勢が人類種共通の敵として現れたのだ。
◆◆◆
メルクリア王国にはファーレーンという街がある。
街から目と鼻の先には雄大な草原地帯が広がり、その奥には広大な森林地帯━━ニールベル大森林が広がっていた。
そのファーレーンの街に生まれ育ち、傭兵として生計を立てていたルチャはこの日、陽が傾いていても仕事を止めなかった。
彼の仕事というのは薬の材料になる薬草を採取したり、草原地帯に生息する魔獣を狩る事だったが、最近は妙な同業者が増えてしまい、稼ぎが減っていたのだ。
妙な同業者というのは皆共通して保管庫なる特殊な道具を使い、死を恐れずに草原や魔獣が生息する森へと入っては成果を大量に持ち帰ってくるのだ。
おかげで物価は下がり続け、ルチャのように元々街で暮らし稼いでいた傭兵は多くの活動時間をかけて成果を出すしかなかった。
幸いにも妙な同業者━━死を恐れない事から別称として冒険者と呼ばれる彼らが現れ始めた頃と時を同じくして新しい魔法道具屋がオープンした。
そのおかげで緑光石なる熱を加えると数時間だけだが緑色に発光する鉱石が購入出来るようになり、陽が傾き、完全に暗くなってしまってもルチャ達、傭兵は問題なく活動ができるようになった。
この日も緑光石に明かりをつけ、緑色の光に照らされながら薬草や魔獣を狩っていたルチャだが、ふと空気が変わったかのような感覚を覚え、無意識に上を見上げると翼が生えた銀髪の少女が宙に浮いているのを目にし、少女の緑色の目と合ったような気がした。
その瞬間、ルチャは傭兵として過ごしてきた中で始めて言葉では言い表せられない感覚に襲われ、気がつくと足が勝手に街がある方向へと駆け出していた。
激しい悪寒や冷や汗が流れていくのを感じながらルチャはこの草原地帯、いや、宙に浮く銀髪の少女の前から1分でも1秒たりとも居てはいけない。そう本能が警告しているようだった。
そのせいで置いてきてしまった薬草や魔獣の死体、〆る時に使ったであろう道具の事を忘れてルチャは本能の命ずるまま、無我夢中に街の方へと全力疾走で走り続けた。
その咄嗟の判断は正解だったと言える。
直後、突風とともに、大きな雨粒が空から降り注ぎ、地響きとともに雷鳴が鳴り響いたのだ。
振り返ってはいけない。振り返った時、待っているのは自分の死だ。
ルチャは自分自身にそう言い聞かせ、みっともなく泣き叫びながらも必死に走り続けた。
ようやく街へとたどり着いたルチャを出迎えたのは呆然と草原がある方へと視線を向けたまま立ち尽くす街を覆う壁も守る騎士達の姿だった。
「おい!あんた!何があったんだ!今、草原の方が━━」
「待て!そんな事聞いてる場合か?!おい、大丈夫か?!しっかりしろ!」
ルチャは街に辿り着いた安堵から、騎士達の目の前で気を失ってしまった。
翌日、街の診療所で目が覚めたルチャのもとに昨晩、草原で起こった事の事情を聞きたいと、ルチャを診療所へと運んだという騎士が数名訪れていた。
「さて、あんたに聞きたいのは昨晩の草原で起きたことについてだ。
知っていると思うが草原の上空に突如、暗雲が立ち込め、多数の竜巻と稲妻が発生したらしい。おかげで草原地帯は今、壊滅状態にあるらしい━━」
何か知らないか?そう尋ねる騎士にルチャはあの晩、上空に佇んでいた銀髪の少女の事を思い出していた。
◆◆◆
草原地帯が一瞬のうちに壊滅的被害を受けた。
その時何が起こったのか、知る者はファーレーンの街にはルチャ以外にいない。
しかし、メルクリア王国の上層部、王を含む忠臣達は知っていた。
なぜなら、メルクリア王国のすぐ隣に存在するニールベル大森林。かの地に人類種の敵が誕生したという知らせを受けていたからだ。草原の壊滅も誕生したばかりの人類種の敵が起こしたのだろうと推測された。
人類種の敵がその牙をいつ本格的に王国へと剥けるのか分からない。
メルクリア王国上層部は産まれたばかりの人類種の敵。現れた厄災こと『魔王』を討伐する事を決めた。
━━━━それと時を同じくして『魔王』も人類種に牙を向けるべく動き出していたのだが、王国民はまだそのことを知る由もなかった。
◆◆◆
これは剣や魔法もあり、魔物や騎士、傭兵などがいる、ゲームのような異世界を舞台に厄災級生物『魔王』となった少女が世界に宣戦布告し、人類種の敵になる物語。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます