第37話 バチェラーの2つ目の意味
「バチェラーは、複数の意味がありました。ひとつはもちろん、妃を選ぶこと。もう1つは、出会うため」
殿下が話しはじめると、雨が止みはじめた。
バチェラーに参加していた令嬢がすべて、この場にそろっていた。初日に逃げたギドギド化粧の令嬢とニーナ以外だ。
「出会うため……私たちが?」
ドラクロア、ハーマイオニー、リンジー、ヴィヴィアンを見た。全員がうなずく。
「正確に言うと、アニマ嬢のお披露目の場でもあったのです。すべての方がアニマ嬢を知っているわけではありませんでしたから」
「話が読めないのですが、なぜ私と皆様が会う必要があったのですか」
殿下は笑った。からからと楽しそうに。
「そうですよね。アニマ嬢には全く訳が分からないことでしょう。そんななか、最後までバチェラーに参加していただいてありがとうございます」
全員ずぶ濡れだった。風邪を引いてしまうので、王城へもどりながら話した。黒い雲が駆け足に動いていた。
「演劇が好きで、公務の合間をぬって変装し、ハーマイオニー嬢の劇を見に行っていました。そこで初めて、アニマ嬢を知ることになりました」
殿下と私が先頭を歩き、令嬢たちがついてくる。なんとも不思議な光景だった。
「アニマ嬢の演技は自由でした。いろんな縛りから解放してくれるような、衝撃を受けました。この才能をずっと見ていたいと思ったんです」
殿下は濡れた髪をかき上げた。水しぶきが飛ぶ。銀色の髪が白く光って、美しかった。
「しかし!」
殿下は手を叩くような動作をして、怒気を発した。リンジーが爆笑する。
「しかし、アニマ嬢はその後、脇役の悪役令嬢しか演じさせてもらえない。あんなに素晴らしかった演技も、見たことがあるものをなぞっただけの演技になってしまった。色々と調べました。結局ギルドや俳優、監督がアニマ嬢をいかしきれていないだけだというのがわかりました。更に家族の問題もあることを知りました。悔しくて、悔しくてたまりませんでしたね。なんとかしたい、と強く思うようになりました」
殿下はそこまで話して、私を見つめた。若干濡れたトパーズの瞳には、慈愛が感じられた。
「タイムリミットが迫っていました。王家との約束で、25歳までに結婚しなくてはならなかった。演劇は唯一、王のプレッシャーから解放してくれる癒やしでした。俺は劇を、ずっと見ていたかったのです。王になったら、忙しくて演劇を見に行く時間はないし、アニマ嬢へ手を差し伸べることもできない。そんな時に、隣国で劇場が売り出されるのを知って、計画を思いつきました」
殿下は私を見て、うなずいた。
「アニマ嬢を、家族やこの国から脱出させ、隣国の劇場で【主役令嬢】を演じてもらう。その手伝いを、バチェラーを利用してできないか、と考えました」
「【主役、令嬢】……」
言葉をなぞると、耳慣れない言葉は宙に浮き、消えていった。
「初めて馬車でお話しした時に、悪役令嬢の悪口を言ってすみませんでした。あれは、アニマ嬢は主役をはる方なのに、悪役令嬢という役を強要する環境に対しての言葉です」
「ああ……」
そういいつつ、あまりの情報の洪水に、理解もやっとの状態だった。
「しかし、劇はひとりではできません。アニマ嬢が悪役令嬢の
いままで、奇妙だと思ったパズルが、組み合わさった! 後ろの令嬢たちを見つめた。
「つまり、バチェラーとは、私のオーディションでもあったということなのですね? 主役をはれるかどうか、皆様に見てもらっていたと」
「それもあります。ただ、もうひとつ、重要な意味がありました。バチェラーの内容を思い返してみて。どうでしょう。わかりましたか?」
殿下は楽しそうに口角をあげた。
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