5章 バチェラー3日目
第34話 バチェラー3日目 最終日①
今日は大切なバチェラー3日目の決戦の日。
もんもんとした懊悩を抱えてベッドをごろりん、ごろりんとしておりました。
一睡も、できませんでしたね。はい。
鏡の前に座ると、すごい
扉をノックされる音が聞こえる。
殿下かと思って居住まいをただす。
「おはよー。アニマ。さっそくはじめるか」
「さてさて。今日はどんなかわいいアニマ様が見られるか。楽しみですねー」
赤い髪を振り乱し、ドラクロアが入ってきた。ヴィヴィアンはふんわりとさせたピンク色の髪を揺らしていた。
「おふたり共。どうしてここがわかったのですか」
「殿下がここだって言うからだけど」
ドラクロアがメイクボックスを鏡台に置いた。
ヴィヴィアンが、ドレスを侍女を使って運び込んでいる。
なぜ2人とも、私が王城に泊まったことを疑問に思わないのだろうか。私は疑問だらけだし、殿下の献身はバチェラーに落ちた令嬢にも注がれているから? 特別なことだと思わないのか。
「さあ、いよいよ最終日、他の令嬢どもを蹴散らそう!」
ドラクロアとヴィヴィアンは手を合わせて、叩いた。
「アニマ。昨日は緊張とかで眠れなかったか?」
化粧ののりが悪いのか、ドラクロアが不満そうだ。
「……そうですね」
キス……されたことをあたまから閉め出した。考えてもわからないし、結果は今日、出るのだ。
「最終日だしね。コンディションを整えるだけで大変か。余計なことを言った。すまない」
後ろでヴィヴィアンが侍女たちに指示を出して、私のドレスを選んでいる。
「よし、いままでで、いちばんかわいいアニマの出来上がりってわけだ」
「わたくしのイメージどおりです。かわいいとクールの融合ってやつです。殿下を驚かせてくださいね」
ドラクロアとヴィヴィアンの太鼓判が押された。
礼を言って、鏡を見る。
もはや、別人になっていると言っていい。マイナス・ド底辺スタートが、人並み以上の容姿になるなど信じられなかった。ドラクロアのメイクは日々上手くなっていた。
ドレスはどことなく、クールさを強調した色使いとデザインだった。白をメインとしながらも、縁や、裾の部分に黒色が使われている。ヴィヴィアンは、とても服のことをわかっている。私にはピンクやフリフリしたり、ごてごてしたデザインは似合わない。
「ドラクロア様、ヴィヴィアン様。ここまでお力を貸してくださり、なんとお礼を申しあげたらよいか。終わったら必ずお礼をさせてください」
あたまを下げると、2人は笑った。
「特等席で、アニマの演技を見せてくれたらうれしい」「わたくしも、一緒です」
「そんなことでいいのですか」
私が聞いた。
ドラクロアとヴィヴィアンは目を合わせた。
「自分の価値っていうものは、自分ではわからないものだよな」
彼女たちは同時に首をふった。
「行ってこい! 私たちのできる最高のことをやった、最高のアニマだ!」
うなずき、扉をあけて、外で出た。
王城の廊下を歩いていると、雨が降りはじめた。それは、豪雨となり、雷雨となった。
濡れる窓を私はしばらく見ていた。
王城の応接間の扉はしまっていた。
すでにふたりの令嬢が待っていた。
「おはようアニマ。今日もめちゃくちゃ、かわいいね」
「アニマちゃん。この後時間ある? あたしと一緒にささっと絵に描いてもらわない? いまのアニマちゃんのキュートさを、永久にあたしだけのものにしたい。あ、ハーマイオニーちゃんも一緒にいく?」
ハーマイオニーと、リンジーがすでに待っていた。
おふたりともため息がでるほどに美しいドレスを着て、美しいメイクをしていた。
「バチェラーもいよいよ最後ですね」
私が言った。
「いよいよだねー。さて、だれが扉をあける? それとも、ノック?」
リンジーが私たちを交互に見る。
「年上のリンジーがやってよ」
「あら。いやだー。ハーマイオニーちゃんのせいで、あたしはいま、3歳、若返っちゃった。ワオッ!! 殿下に選ばれちゃったら、どうしてくれるの」
「最後まで面倒くさい女! 私が開ける!」
ハーマイオニーが重い扉を開けると、反対側からロイドも手伝ってくれた。
「皆様。おはようございます。これより、バチェラー最終日をはじめます。どうぞ、なかへお入りください」
ロイドの声を合図に、私たちはなかへ入っていった。
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