第31話 マシュー家の没落

 僕はバーナード家の屋敷の入り口まで走って、飲み物を一気に飲んだ。


 執事が笑顔でむかえてくれた。


「気をつけろ!」

 僕は息も絶え絶え、言った。


「どうなさいましたか? まさか、アニマ様になにかが?」

 執事が怯えた。


「喉に、攻撃を受けている!」

 

 執事は、喉になにか詰まったような顔をした。


 驚きを隠せなかった。

「まさか、おまえも、攻撃を受けているのか……喉に?」

「アニマ様はどうなさいました」

「なんだ。喉は無事なのか。アニマはだめだった。イケメンだった男がバチュー? がどうのと言って、馬車に乗りこんで怒って、大事な喉に菓子を突っこんだのだ」


「バチュー? イケメン? もしかして、バチェラー中の殿下がアニマ様を取り戻しにきたということですか?」

 執事の顔は青くなり、喉になにか詰まったような顔をした。


「なんだそれは。それよりも、愛しのケイティはどこへ行った?」


「新聞に書いてありました。アニマ様は殿下のバチェラーに参加中で、最終選考まで通過なさったそうです。あれだけの才女ですから、選ばれて当然です。ケイティ様は、ドレス職人と話しておいでです」


 ケイティの部屋にいこうしていた僕は振りかえった。


「えっ? あれって……殿下だったの?」


 執事はうつむいた。

「マシュー様。いますぐに王城へ謝罪しに参りましょう」

「あっ……。僕、新聞読まないから、そ、そうなのか。いま、アニマってそんな感じになっていたのか。なぜ教えてくれない? 喉の調子が悪かったのか」

 

 執事は、喉になにか詰まったような顔をした。

「すまなかった。やはり、喉の調子が悪いのだな。僕も、喉の痛みについては一家言がある。みなまで言うな」


 執事はあたまを下げた。

「申し訳ございません。アニマ様の状況をわかったうえで、真剣に結婚相手として申しこむとばかり思っておりました。それならば、ルール違反ではありますが、先に申しこみ、相手も了承すれば、バチェラー中とはいえ、仕方がない状況になるかと甘く考えておりました」


「僕のケイティへの気持ちを知っていただろう」


「はい。それでもアニマ様のお力が必要な逼迫した状態でしたので。失礼をもうしあげますが、殿下に謝罪には行かれませんか」

「殿下は、大切な喉を攻撃した張本人だ。僕の喉を、だぞ!!!」

「アニマ様も、もういらっしゃらないということですね」

「ああ! これ以上僕の喉を煩わせないでくれ!」


 執事から高い声が漏れた。喉になにか詰まったような顔をした。


「まさか……僕の喉への攻撃がいま、おまえにうつったのか?」

「長いこと、バーナード家にお仕えできて、うれしゅうございました。マシュー様。いままでお世話になりました。それと」


 執事はいままででいちばん、喉になにか詰まったような顔をした。


「まさか……冗談だろう。ほんとうに喉の……病気だったのか?」

「喉から離れられた方がよいと思います。狂気の気配を感じます。いまは、アニマ様がこなくて心から良かったと思いなおしました。私の喉は、これから健康になる未来しか見えません」

 

 執事は喉になにか詰まったような顔をして、すっきりとしていた。


「ま、待て。おまえがいないと……」

 執事はそのまま礼をして、去っていった。それを不安げに他の使用人も見ていた。


「喉のことを……だれに相談すればいいんだ!」

 声は屋敷にむなしく、響いた。





 ケイティは僕を見ると微笑んだ。

「ねぇ。どのデザインがよいと思う?」

 ドレスの絵を見ながら、言った。


 ケイティにアニマを連れて来られなかった話をした。


「いままでどおりで問題ないのよね。ねぇ。こっちがいいと思わない?」

「ああ。そうだな」

 ケイティの笑顔を見て、思う。僕が頑張らないと。


「マシュー。手付金が必要みたい」

「わかった」

 そういって、自分の財布を見て、驚いた。あまりにもお金がない。



 その時、喉に激しい痛みがのぼってきた。



 結局、喉を大事にしないものは、喉に泣くんだよ。

 涙がこぼれたが、声が出なかった。

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