3章 バチェラー2日目

第13話 タウンゼント家でのドタバタ

 ニーナのバチェラー2日目の準備に大忙しだった。


 ニーナはすでに殿下と結婚したつもりになっていて、王城の自分の部屋はどんななのか、どんな食事が食べられるのか、殿下との甘い生活を夢想していた。


「見て! お母さま! また新聞が適当なことばかり書かれている。私が一番に決まっているじゃない。なんで姉さまよりも私が下なのよ!!」

 ニーナが新聞を破きそうだったので、私はあわてて止めた。


 数日後の新聞に、バチェラーの結果と、誰が妃に選ばれるのか予想が記載してあった。







 ※新聞に一部アニマが加筆を行いました。






【本命】


 ◎ ハーマイオニー 【看板女優令嬢】


 ブロンドヘア 20歳  

 記者の目から見て、一番殿下と意思疎通、コミュニケーションが取れていたように見える。殿下が王太子妃に求める胆力のようなものも感じられ、一番適任かと思われる。

 さらに演劇の世界でも、名声、演技力、美貌を持つ。今回演技経験者が多いのも、王政は化かし合い。演じる力が政治に重要というお考えなのかもしれない。





 

【対抗】



 〇 リンジー 【みんなのお姉さん・マイペース令嬢】


 紫の髪 22歳 侯爵令嬢

 ハッカー家の侯爵令嬢で、家柄は一番上。天真爛漫といえばいいのか……。はっきり言ってつかみ所がない令嬢だ。意見をはっきり言うし、忖度しない。記者の心に強い印象を残したのは確かだ。なぜか推したいと思わせる魅力がある。あと、多分、すごくいい人に違いない。王太子妃になったら、明るい国になりそうな予感がある。




 〇 アニマ 【悪役令嬢】


 漆黒の髪 17歳  

 今回タウンゼント家の子爵令嬢が2人、バチェラーに選ばれていて、その長女。ハッカー家と比べると、家柄が落ちる。演劇をやっているらしく、その評判は良くない。しかし、令嬢の特技発表会があったのだが、いままで全く見たことがない演技をした。殿下はそこで最高得点をつけたのではないかと思うぐらい喜ばれていた。もし王太子妃になったら面白そうだと思った。記者が思うダークホースは彼女である。





【単穴】

 

 ▲ ニーナ (妹)


 ハニーイエローの髪 16歳 

 タウンゼント家の次女。なぜこの令嬢がバチェラーに呼ばれたのかわからない。幼い言動と自己中心的な行動が散見される。一番若いが、他の令嬢は若いなりに最低限の礼儀、マナーはクリアできている。王太子妃など、とても務まると思わない。しかし、腐ってもバチェラーに選ばれしご令嬢だ。記者の目が節穴で魅力に気づいていないことを願うばかりだ。







 いやいやいや! なんで私がダークホースになってるのですか! 

 いやー妹。悪く書かれてますね。



 ため息をもらす。タウンゼントの窮地を救うには、妹が王太子妃にならないといけない。



 ニーナをちらりと見ると。

「殿下はなかなかカッコよかったよ! 結婚して、私を幸せにしてほしいなぁ。まあ、当然、私が選ばれると思うわ」


 メイドや侍女がニーナをもちあげて、鼻高々になっていた。



 ひそかに心配する。ハーマイオニー、リンジー、どの方も強敵すぎるぞ。ニーナは若い以外に勝っているところがない。



「姉さま! 考え事をしている暇はないよ。私が殿下に無事選ばれるように作戦をたてましょう。姉さまもそのほうがいいって思うよね?」

「ええ」

「姉さまは、殿下のこと別に好きじゃないよね。ちゃんと私の応援をしてくれるよね」



 私が、殿下のことを好き? いやいや。そんなわけはない。たしかに何度も助けてくれたし、演技を褒めてくれたけれど……。

「どうなの」

「……ええ。もちろん、ニーナの応援をするわ」





 ニーナの部屋でドレスや宝石を選んでいるとメイドが私を呼びに来た。

「ご友人がいらっしゃいました」

「はっ? えっ?」

「ですのでご友人が」


 メイドの耳元で言った。

「私に友人はいません」

「……では、お帰りいただきますね」

「……待ってください。どなたが来たのか見に行きます」



 そうして、玄関ホールまで下りると、2人の令嬢が立っていた。



 私を見ると、1人が走ってきた! すごく、足が速い!  赤いシルエットが残像のように見え、通常の令嬢の3倍ぐらいははやかった。





 どおーーーーーーーーーんんんんんんんんんっっっっっ!!!!!!!

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


 壁に挟まれて、令嬢の両腕に私のあたまが挟まれた。


 顔が近い……。これは、伝承にある、殿方が女性を口説く時の捨て身の必殺技。



 ――壁ダァーーーーん!!! です



「ひさしぶり」

「この前、お目にかかったばかり――いえ、おひさしぶりです」

 


 ドラクロアだった。バチェラーで一緒だった令嬢だ。

 近くで見ると、燃えるような赤い髪といい、迫力がある。私の悪役令嬢顔も相手からはこう見えているのでしょうね。


「ちょっと部屋、いこっか」

「は……はい……」

 


 傷心のヴィヴィアンもいた。暗い表情をして、うつむいていた。

 いったいなんの用があるのだろう。




 ――まさか……バチェラーの報復。ありえる話だ。

 ドラクロアにはドレスをチェンジさせるほどに酷いことをしてしまったし。

 ヴィヴィアンは私がいなければ、2日目に進めたと思ったかも知れない。



 背中をつたう汗がとまらない。




 ――そして、自室の扉は閉じられた。

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