第11話 1日目のバチェラーの合格者発表
「皆様お疲れ様でした」
渋い声でロイドが告げる。
王城の応接間で合格者発表がおこなわれる。
広い部屋には白い絨毯が敷かれていた。カーテンや椅子などの調度品は赤で統一され、壁の縁は金の細工がしてあった。
殿下とロイドが中央の椅子に座っていた。そこから見えるように等間隔で令嬢たちの椅子が用意され、記者たちはいちばん後ろに控えていた。
「2日目にご招待したい令嬢のみ、バラをお渡しします。受け取って頂くことも、拒否していただくことも可能です。また、殿下よりバラをお渡しいただけなかった令嬢はいかなる理由をもってしても、2日目に参加はできません」
ロイドが持っている銀の盆には6本のバラがあるが、全員が合格するわけではないだろう。私が落とされるからだ。
悪役令嬢として呼ばれたけれど、良くしてもらったので別れるのは正直寂しい。こんな機会でもなければ殿下と出会うこともなかっただろうから、得がたい体験だった。
殿下は席を立った。
「今日は皆様の特技、人となりを知ることができて有意義な1日を過ごせました。改めてお礼申し上げます。それでは、お一人ずつ名前を読み上げます」
景色が歪むほどに、重々しい空気に包まれる。
各令嬢の唾を飲み込む音さえ聞こえてきそうだ。
すごいな。私にはこのプレッシャーは耐えられそうもない。
ちらりと盗み見ると、リンジーは平然と椅子にもたれかかって、あくびをしている。ドラクロアは歯ぎしりせんばかりに顔が険しくなっている。ハーマイオニーは毅然と殿下を見て、目を離さない。ヴィヴィアンは、ピンクの髪をさわりながら、落ち着かない。妹は……椅子のひじ掛けにからだを預け、ぐったりとしていた。
殿下が視線をさまよわせ、だれかと目が合う。
「リンジー嬢」
「あっ、あたし?」
リンジーは紫の髪を揺らし、ゆっくりと歩く。
「バラをもらっていただけますか」
「あたしでいいんですか? 誰かと間違ってないですよね」
「ええ。リンジー嬢にバラをお渡ししたいのです」
「では、ありがたく、ははあ」
恭しくリンジーはバラを受け取って、下がった。
「ニーナ嬢」
「やたっ……はい!」
こけそうになりながらも、殿下の元に駆けつけた。
ニーナを勝たせて、タウンゼント家の窮地を救う。私の仕事はなんとか完遂できたようだ。
「バラをもらっていただけますか」
「……えっと。……いや……です」
私は笑顔のまま、椅子から転げ落ちそうになった。
ニーナはニコニコしながら言った。
「バチェラーって、上から目線で一方的に選ばれるから面白くないんですよ。1回断ったら、対等になれるかなーと思って。イタズラしちゃいました!」
バラを受け取った。
隣の席に座り、これ見よがしにバラを見せびらかしてきた。
心臓がいくつあっても足りない。ばれないように深い、ため息を吐いた。
また、沈黙が満ちた。待たされる時間が長ければ長いほど、令嬢たちの緊張は増す。
落ちるのが確定している私でさえ、こんなに手がふるえている。
早く終わって欲しい、そう思っていると。
「ハーマイオニー嬢」
「はい」
呼ばれることがわかっているように、すっ、と立ち上がると、ドレスが上から吊られてるかのように綺麗な姿勢で歩いて行った。
「バラをもらっていただけますか」
「はい。よろこんで」
バラを受け取り、席に戻った。
殿下の口もとに力がこもった気がする。ロイドはすこし後ろに下がってしまった。
――さあ。ここからだ。有力だと思う令嬢は全てバラを手にしている。
殿下はロイドを見て、うなずく。
ロイドはバラを差し出した。
殿下は重々しく、言った。
「あとお1人だけ、選ばせていただき、終了とさせていただきます」
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