第6話 バチェラー参加者全員集合!①

「アニマ嬢がトップバッターですか」


「殿下が指名したからでしょう。なぜ、私が、1番なのですか……」

 思わず、声に出ていた。



 バットを持って、整備された土の上を歩く。



 バチェラーのはじまりというものは、王城の豪華絢爛な場所で、令嬢の自己紹介をするのが普通だと思っていた時が、私にもありました。





 ボックスに立った。後ろには騎士が着るフルプレートアーマーを装備し、びかびかに光っているロイドがいた。

「ほほっ……。わたくしも……ご一緒させていただきますね」

 心なしか、声が辛そうだった。鎧、重そうですものね。



 中央にいる殿下と、私をドラキュラと呼んだ令嬢は殿下の横に立っている。二人にお辞儀カーテシーをした。



「改めまして。アニマ・タウンゼントと申します。歳は17歳。演劇を少々、たしなんでおります」


 

 殿下はそのまま、ひざまずいた。真っ白の素敵な衣装が汚れると思ったが、お構いなしだった。



「セシル・バイラルです。歳は25歳。素敵な妃を探している、でいいでしょうか。よろしくお願いします。アニマ嬢」

 心が、大きく揺れた。


 目は合わせてくれないが、前ほど露骨に視線を外すことはない。耳に熱をもっていることを髪で隠した。




 私のことをドラキュラと呼んだ令嬢を見る。

 燃えるような赤い髪がいやでも目立つ。気の強そうな顔立ちだ。

「ドラクロア・コンロンと申します。20歳です。特技は……そうですね。歌が得意です」


 殿下と私に向かって言った。


 ドラクロアは殿下の計らいで違うドレスに着替えている。殿下はよく令嬢のスペアドレスなんて用意していたな。




「ぜひ後で歌ってほしいです。ところで、新しいドレスはどうでしょうか? 本当は帰りたいのではないですか」

 殿下はすこし楽しそうにドラクロアに言った。それは、これから起こるイベントを楽しみにしている態度のようだった。


 ドラクロアは顔を赤らめ、答えにきゅうしたが、持ちなおした。


「いえ。殿下のドレスを着る為に必要なことでした。こんなところで屈する女ではないということを、ここにいるだけで証明できるかと」

「そうですね。そして、図太い方だ! アニマ嬢に言った暴言。俺は忘れていませんからね」

 殿下が怒りを見せた。私は驚く。

 恭しく、お辞儀をするドラクロア。


 


「さあ、それでは、試合開始です!」

 ロイドの声が響く。



 ボックス近くの土を足で整え、ドラクロアに向けて、バットを向けた。ドラクロアは挑発するように、目を細める。


 

「さっきはよくもドラキュラと言ってくれましたね。殿下があなたを叩き潰すことをご所望なので、申し訳ありません。バットの染みにして差し上げます!」

 バットを背負うように斜めに構え、片足をすこしあげた。

 


「ふっ。絶対にやらせない。殿下に私という存在をお見せするチャンスだからね」




 ドラクロアは私に向かって、投げた。


 下投げ。驚くほど、手首の反動を使った、美しいフォーム。




 早い!!!!!!!!!!





 からだを思いっきり、振った。





「どぉりやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 小気味よい音が響く。



「あああああああーす。くっっっっ。フィジカルお化けかよっっ」

 ドラクロアの悲鳴だ。顔をゆがめて、悔しがっていた。




 バットをその場において、ドレスの裾を持つ。優雅に走った。



 ボールは柵を越えて、場外ホームランだった。





 バチェラーに参加している令嬢から拍手が起こる。

「アニマー!」「ナイスホームラン!」「よっ! かっ飛ばし令嬢」




 照れながらも手を振った。







 ――なぜか、私たちは野球をやっていた。







 殿下が満足そうにうなずく。

「王太子妃は、体力、知力など様々な能力が必要になります。それと、皆さんはほとんど初対面だと思いますので、互いの顔と名前を覚えてもらうために企画しました。なかなか良いアイデアでしょう」


 いや、相当変なことやっているぞと、心の中でツッコミを入れる。



 私とドラクロアはグラウンドの端に備えてある椅子に向かった。

「……すごかった。悔しいけど、完敗だ。世界を狙える器だよ。アニマは。さっきは、失礼なことを言って、申し訳ありませんでした」

 ドラクロアは深く、あたまを下げた。



 おや、私が悪役令嬢のソウルをおろした時はあんなに怯えていたのに、いまは平気そうです。一般の方には悪役令嬢のソウルをおろさなくても、私の顔を見て怖がられるのですが。 



「ありがとうございます。素晴らしい一投でした。〝強肩のドラクロア〟と名乗られてはいかがですか」

「強肩のドラクロア、か。いいね。気に入った!」

 私たちは熱血少年野球小説のように、手をとりあった。



 ちなみにドラクロアのあだ名は【ドラキュラ令嬢】にしよう。強肩のドラクロアはあだ名というより、二つ名みたいだから。心のなかだけはそうさせて頂こう。

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