第22話 二人の王子
久美を探して海近くの道路を徘徊していた友樹たち。
だが、やみくもに探したところで見つかるはずもなく。そこで
が、そんな時だった。
「
「え?
友樹たちが呼ばれて振り返ると、背後にはなぜか美化委員の
コンビニのレジ袋を下げた
「驚いたよ。お見舞いに行ったら、病室はもぬけの殻でいないんだから」
「じ、実は外出許可をとってまして」
「それより、早くノルンの居場所を教えろ」
「わかってます」
すると、匡孝はポケットからスマートフォンを取り出して、GPSアプリを開いた。
久美に渡したブレスレットはGPS機能も備えており、魔法だけではなく物理的にも居場所がわかるようになっていた。
————が、アプリを開いた瞬間、匡孝は大きく見開く。
なぜなら地図が指し示した場所は、よく知る場所だったからだ。
匡孝は視線を上げて友樹を見据える。
「待田先輩」
「どうしたんだ?」
「久美さんの居場所が……俺の家になっています」
「殿宮の家?」
「ちょっと自宅に電話してみます」
「ああ」
それから匡孝はスマートフォンで自宅に電話をするが……。
「家族に聞いても、久美さんはいないと言われました。もしかしたら、アプリの調子が悪いのかもしれません」
「それは困ったな」
匡孝の話を聞いて、友樹が考えるそぶりを見せる中、ずっと傍らにいた
「誰かを探しているの?」
「実は、久美さんがいなくなってしまって」
匡孝が告げると、明音は何かを思い出したような顔をする。
「水越さんなら、ここに来るまでに見かけましたよ」
「それは本当か?」
友樹が顔を明るくするのを見て、明音は頷く。
「良ければ、案内しようか?」
「ああ、頼む」
ようやく久美の手がかりを見つけた友樹たちだったが、明音のにこやかな笑顔を見て、匡孝はなぜか嫌な予感を覚えた。
***
「——どこまで行くんだ? ノルンはそんなに遠くにいたのか?」
明音に連れられて、友樹たちは海沿いの道路を歩いていた。
だがいくら歩いても、久美を見つけることはできず、それどころか通行人の数は徐々に減ってゆき、次第に人はいなくなっていた。
そして幾度となく訊ねる言葉も、事務的な流れになり——明音は同じ言葉を繰り返す。
「はい。もう少しですから」
市街地を越えた三人は、木々に囲まれた暗い土道へと足を踏み入れた。
人どころか、生き物の気配すら薄いその場所で、ひたすら歩き続ける明音を見て、友樹は匡孝に声をかける。
「——おい」
「わかってます」
————と、その時。
ふいに三メートほど先を歩いていた明音が振り返る。
思わず友樹たちも立ち止まるが、久美がいる様子はなく。その代わりに、電灯の下で明音がにっこりと笑って告げる。
「さあ、着きましたよ。ここがあなたたちの——最期になる場所です」
その言葉の直後、木陰から現れた
生徒会書記で、生徒会長を追いかけてばかりの
「どういうことだ?」
友樹が訊ねると、
「僕たちのこと、覚えてる? ガラン王子に、ククルス王子」
「ガラン王子だと?」
友樹は目を瞬かせて訊ねるが、その反応が気に食わなかったのだろう。明音は強い口調で告げる。
「違うとは言わせないよ」
「違う」
友樹は否定する。
だが明音は信じなかった。
「何が違うのかな? あなたの姿はガラン王子そのものじゃないか」
明音の指摘に、今度は匡孝が口を開く。
「あなたたちも、前世の関係者なんですね。ガラン王子を知っているなんて——けど、姿が同じだからって、中身も同じとは限らないでしょう?」
「どうしてククルス王子までそいつの肩を持つんだ? 君はガラン王子がしたことを許せるのかい?」
明音の責めるような言葉に、匡孝はため息を吐く。
「だから、待田先輩はガラン王子じゃない。それに、フレイシアだって前世とは違う姿をしているだろう。だから、ガランじゃなくても不思議なことじゃない」
匡孝は説明をするもの、明音が納得する様子はなく——きつい眼差しを友樹に向けた。
「あなたは、ククルスをうまく懐柔したようだけど、僕たちは騙されないよ」
「ノルンはどこにいるんだ?」
「水越さんは僕たちの仲間が保護しています」
右京が無表情で告げると、匡孝はハッと目を瞠る。
「まだ仲間がいるのか?」
「ええ。殿宮くんにとって、一番近い場所にいる王子に、預けています」
「俺のそばにいる王子?」
「まだお気づきになられませんか? ジメール王子ですよ」
「ジメール王子? ……まさか!」
「蒼くんのことですよ。あの子のおかげで僕たちはフレイシアと再会できたんですから」
「そんなまさか……蒼がジメール? アプリが示した場所は、間違っていなかったということか」
「じゃあ、ノルンは無事なのか?」
「フレイシアを、あなたの特別な名前で呼ばないでください。汚れます」
「お前たち……ヤキモチを妬いているのか?」
「は?」
瞠目したのは右京と明音だけではなかった。匡孝すら動揺の色を見せる中、友樹は淡々と告げた。
「ノルンが俺たちとばかり遊んでいるから、お前たちも遊びたいんだな」
「まだわからないのか? どこまでとぼけたら気が済むんだ」
明音が苛立たしげに告げると、そんな明音の肩を右京が掴む。
「盛田先輩、口で言っても無駄です、なにせあのガランですから」
「なるほど、そうかもしれない」
「とにかく、あなたたちにはいなくなってもらいます」
右京は言って、ブレザーの内ポケットから短い杖を取り出した。それを見た匡孝が、友樹を守るようにして前に出る。
「やめてください! 俺たちに危害加えて、久美さんが喜ぶと思うんですか?」
「俺たちの気持ちも知ってるくせに、フレイシアに近づけないようにしたククルスに言われたくないな」
明音に痛いところを突かれて、匡孝は口ごもる。
フレイシアを独り占めしたいばかりに、他の王子に近づけなかったのは紛れもない事実だった。
「フレイシアを火あぶりから助けることもできなかったくせに」
吐き捨てるように告げた
すると、黙ってみていた友樹が口を挟んだ。
「それはお前たちもじゃないのか?」
「なんだと?」
生徒会での穏やかな雰囲気からは想像もつかないほど鋭い目をする右京に、友樹はさらに付け加える。
「フレイシアのことは誰も助けられなかったんだろう?」
「火を放ったあなたが何を言いますか——あなたにもフレイシアと同じ目にあってもらいます」
そう言って、右京は持っていた短い杖の先端を、ゆるやかに振った。
すると、瞬く間に炎の壁が現れて、友樹たちを包み込んだ。
「炎の魔法……テト——
匡孝が説明する中、友樹はまるで緊張感のない顔で首を傾げる。
「そうか?」
匡孝が炎を警戒する中、友樹が「消えろ」と小さく告げると、炎はシュンと音を立てて消失した。
「え?」
「火が消えた? どういうことだ?」
「やっぱり、待田くんはガラン王子なのか」
顔を歪ませて告げる明音だが、右京は眉間を寄せる。
「だけど、ガラン兄さんは魔法なんて使えませんでした。しかも僕の炎をこんな簡単に」
「これで終わりか?」
友樹が挑発すると、今度は明音が不敵に笑って自らも杖を持った。
「だったら、これならどうだ」
明音と右京は視線を交わすと、二人そろって杖を持ちあげた。
すると、友樹たちの足元が盛り上がり——地面を割って、身の丈より大きな
「ゴーレムか。これはすごいな」
「待田先輩、下がっていてください」
「殿宮」
「大丈夫です。俺がなんとかしますから、先輩は逃げてください」
「ふふ、いくら
明音の嘲笑に、匡孝は唇を噛み締めた。
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