第17話 聖女様と球技大会本番 その2
水沢さんのサーブが相手コートにしっかり決まった瞬間、クラスメイトたちからは大きな拍手と歓声が沸き起こった。
彼女は小さく安堵の息をつき、初めての成功に少しほっとした表情を浮かべていた。
「やったね、聖女様!」
クラスメイトの一人が明るく声をかけ、水沢さんは控えめに微笑み返す。
見てると彼女の心の中では、今までの不安が少しずつ解消されていっているように感じられた。
そして試合は佳境に差し掛かり、どちらのクラスも最後の力を振り絞って戦っていた。
バレーボールコートでは、クラスメイトたちの真剣な表情が印象的だ。
俺はベンチに座り、他のクラスメイトと同じように羽音のプレーを見守っている。
けれど、心の中では誰よりも強く彼女のことを──水沢さんのことを応援していた。
水沢さんは最初こそ緊張でミスを重ねていたが、俺との練習の成果が少しずつ表れ始めているように見える。嬉しい。
彼女の動きは徐々にスムーズになり、次第にチームの中で自然に溶け込むようになっていた。
──そして試合も進み、ある時相手チームの鋭いスパイクが飛んできた。
瞬時の判断が求められる場面だ。水沢さんは躊躇せずにボールに飛び込み、しっかりとレシーブを決めた。
ボールが上がり周りから歓声が上がる。
そしてチームメイトがトスを上げてフェイントで点をもぎ取った。
「ナイス、羽音!」
「今の良かったよ!」
クラスメイトたちから自然に応援の声が飛ぶ。
そしてその声をかけられる度に俺も嬉しくなる。
水沢さんがチームの一員として自分が受け入れられていることを実感しているだろうか、そう思うだけで嬉しい。
今までは「聖女様」として距離を置かれてると感じていた水沢さんだが、今日の球技大会では純粋に「クラスメイト」として対等にいられることに対する嬉しさが溢れだしている。
そんなみんなの前でイキイキしている彼女の様子を見ているとなんだか俺も嬉しくなってしまうのだ。
試合の最終局面。
こちらのマッチポイントで、あと一点取ればこちらの勝ちが決まる大事な局面。
再び水沢さんがサーブの順番を迎えた。
「頑張ってくれ……」
俺は手を合わせ祈るように静かな声援を送る。
すると、彼女はボールを手に取った。
明らかにそのゆっくりな重みのある動きがら、前半とは違う自信が彼女の中から溢れだしているのを感じた。
俺の教えを思い出してくれたのか、ボールを着いてから、落ち着いて深呼吸する。
そして、冷静にボールを打ち込んだ。
「おお……!」
ボールは再び相手コートに綺麗に決まり、観客から歓声が上がった。羽音の表情が晴れやかになる。
「やった……!」
水沢さんが呟くと、クラスメイトたちが一斉に彼女に拍手を送り、彼女の元へ集まった。
「すごい良いサーブだったよ!」
彼女は周りの目を気にしてしまう節があるが、今の彼女は純粋に目の前のバレーボールを無邪気に楽しんでいた。
「早く俺もやりたいな……」
そんな楽しそうな彼女を見ていると自分もうずうずしてくる。
そして、水沢さんがチームから認められている様子を見て俺は心の中でガッツポーズをした。
水沢さんが緊張や不安を乗り越え、クラスメイトたちと共に戦う姿を見て、俺自身誇らしさを感じていた。
試合が終わると、クラスメイトたちはみんなで勝利を祝った。
水沢さんもその輪の中に入っており、いつもとは違う自然な笑顔を見せていた。
「聖女様、今日の試合すごかったよ!」
「ほんと、あのレシーブめちゃくちゃ良かった!」
クラスメイトたちが次々に声をかける中、水沢さんは少し照れながらも感謝の言葉を返していた。
彼女の表情からは、緊張がほぐれ、ようやくクラスメイトとしての自分を受け入れてもらえたという安堵感が確かに存在しているのだろう。
俺はその様子を遠くから見守りつつ、水沢さんがクラスメイトたちと楽しそうに話しているのを見ていた。
「良かったな、水沢さん……」
俺は陰から彼女を見守りながら、彼女がクラスの中で一員として認められていく姿に静かな喜びを感じていた。
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