第二章 球技大会

第13話 聖女様と球技大会


 時間は昼休み、クラスのあちこちから賑やかな声が響いていた。


「志織は何出るー?」


「うーん、私はバレーかなぁ!」


「いいね私も一緒にやるー!」

 

 ──うちの学校では再来週に球技大会が開催される。

 

 クラスTシャツを準備したりというオシャレ高校みたいなことはせずにただ全力で球技による対決を行う。

 

 そのようなものだが、みんなガチになって非日常を楽しむ。なんかスカしてるやつがかっこいい、みたいな空気は一切感じられない。

 その雰囲気は俺は好きだ。

 

 来週開催される球技大会に向け、みんなが競技やチーム分けについて話し合っていた。


 俺はその騒ぎから少し離れた席で静かにしていたが、隣の席の山田が声をかけてきた。


「益山、お前は何に出るんだ?球技大会って結構盛り上がるし、参加しないと損だぞ!」


「いや、そりゃ参加しないことは無いけどな」


「それはそうか!」


「うーん、でもまだ参加するやつは決めてないかな。別にどれでもいいし……」


「適当だなあ、せっかくだからやる気出せよ!」


 山田は笑いながら俺を小突いてきた。友達がいない俺にとって、こうして隣の席の山田が話しかけてくるのはありがたい。


 ──しかし俺にはもっと気になることがあった。


 席に座っている水沢羽音、学校一の美少女であり「聖女様」としてみんなから敬われている彼女が、今日はどこか元気がなさそうだった。


 クラスメイトたちが次々と参加する競技に着いての話し合いに参加する中、水沢さんはただ静かに窓の外を見つめていた。



 


 ******



 


 放課後、俺はいつもの公園に向かい、ベンチに腰掛けた。

 水沢さんと会う時ははここ、放課後の公園と決まっている。


 学校では「聖女様」として他人のフリをしている俺たちだが、ここでは『秘密の友達』として会話ができる。


 俺がしばらく座ってかのじょのことをまっていると、水沢さんが現れ、俺の隣に腰掛けた。


 しかし彼女は少し心配そうな表情をしていた。

 やはり学校の時に感じた違和感は本物だったのだろうか。


「益山くん……実は、ちょっと困ってることがあって……」


 俺の隣の水沢さんは俯きながらゆっくりと口を開いた。

 しかしタイミングもタイミングなので彼女が思い悩んでいることに大体の検討は着いていた。


「どうしたの?やっぱり球技大会のこと?」


 俺がそう尋ねると水沢さんはゆっくり頷いた。

 そして彼女はゆっくりと話し始めた。


「そうなの。私、女子のバレーボールに出ることになったんだけど……私、運動が苦手で。特にバレーボールは全然得意じゃなくて、みんなに迷惑をかけるんじゃないかって不安で……」


 水沢さんがそんな風に悩んでいるとは思っていなかった。

 俺はてっきり「聖女様」は容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群の完璧人間だと思っていた。

 実際彼女の見た目は周りと比べればずば抜けているし、成績も学年トップクラスだ。

 しかしそんな彼女も運動は苦手らしい。

 正直なことを言わせてもらえば、なんだかそれを聞いて安心したというか可愛いな、と思った。

 

 しかし彼女はいつも完璧に見える校内一の人気者、聖女様だ。

 そんな彼女はクラス、学校のみんなの期待に応えようと頑張っているのだ。


 そしてそんな頑張っている彼女に俺は友達として応えてあげたいなと思う。

 

「そっか……でも大丈夫!俺、実はバレーボールちょっと経験あるから、もしよければ放課後に一緒に練習しない?」


 そんな俺の提案が意外だったのか水沢さん驚いた表情を浮かべた。


「本当に!?益山くんってバレー経験者なの?」


「うん、実はね。中学までバレーやってた」


「いつから?」


「小3の時からかな」


「大ベテランじゃん!」


「大ベテランて」


 なんだか彼女の言葉のチョイスに笑ってしまった。


「でも益山くんが手伝ってくれるなら……私頑張れるかも。」


 その言葉になんだか俺は心地良さを覚えた。

 水沢さんの一人の友達として彼女を支えなければ!俄然やる気も出てきた。


「もちろん、ここなら多分学校の人には見られないし、気楽に練習できるから。」


水沢さんは少し安心したように微笑んだ。


「ありがとう、益山くん……じゃあ、お願いしてもいいかな?」


「うん!一緒にがんばろう」


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