第6話 聖女様と体育館裏
うちの高校は一コマが六十五分と長く、午前の授業は三限までで終わる。
三限が終わると俺は教室を一人出て、昨日の夜、水沢さんにメールにて指定された待ち合わせ場所である体育館裏へ向かった。
俺は体育館裏に着いて、スマホを見ると、水沢さんから『もうそろそろ着くね』というメールが来ていた。
──なんだかドキドキしてきた。
告白される訳では無いことは重々承知だが、そもそも女の子との関わりはもちろん、友達すらおらず、こうやって待ち合わせとかすること自体が久しぶりなのである。
なんだかドキドキするのと同時に心のどこかでワクワクもしていた。
あの『聖女様』と二人きり秘密の密会(やましい意味は決してない)みたいな感じで、そのようなシチュエーションにドキドキしているのは確かである。
「──おまたせ!」
そんなことを考えていると俺の目の前に『聖女様』が現れた。
昨日のようなポニーテールではなく髪は下ろしてある。艶やかな髪が風でなびく度に、その彼女の美しさに思わず見とれてしまいそうだ。
「お、おう」
いきなり水沢さんが現れてびっくりしたのもあるし、緊張も相まってなんだか変な返事になってしまった。
対する水沢さんは、昨日のラーメン屋でも見せていたような、普段の『聖女様』である彼女とは違う無邪気な笑顔を俺に向けてきた。
……ま、眩しい!
「いきなり呼び出してごめんね」
「いいよ全然、特に誰かとの約束もないし」
なんだか自分で言ってて悲しくなる。
……まぁしかし昼休みはいつも教室か、気分によっては外に出て外の空気を吸いながら一人弁当を食べるのが俺の日課なのである。
「まずはわざわざ来てくれてありがとう」
そう言って水沢さんはぺこりと頭を下げた。
「うん、大丈夫だよ、それで用事ってのは何?」
俺がそう尋ねるやいなや、「え、ええと……」といきなり水沢さんはモジモジし始めた。
なんだなんだ。どうしたんだ水沢さん。
「……今から変なこと言うけど笑ったりしない?」
「え、ギャグでもするの……?」
「あ、いやそう言う意味じゃなくて……!」
水沢さんは一生懸命否定する。なんだか可愛い。
でもびっくりした。
ただでさえいつもの学校での『聖女様』のおしとやかなお嬢様のようなイメージと、今俺の目の前にいる水沢羽音でのイメージはかけ離れているところがあるのに、ギャグなんてし出した果てには、それを見た俺の脳がどうなるか分からないところだった。
「わかった、笑ったりしない」
俺の真剣な眼差しに気づいてくれてのか、彼女も俺に対して少し真剣な目付きになった。
そして彼女はその頬をうっすらとピンク色に染めて、少しの羞恥が感じられる顔でその言葉を俺に言い放った。
「──益山くん、私と友達になってくれませんか」
******
『──友達になってくれませんか?』
その言葉が俺の頭の中で何度もリピートされる。
状況を整理しよう。
学校で誰もが知っている人気者の『聖女様』に昼休み、体育館裏で一人呼び出され、そこで友達になって欲しいと頼まれた。
……うーん、分からん。
彼女の言っている意味はわかるけれど、彼女の意図が見えてこない。
「…………」
俺が水沢さんからの言葉にどう反応して良いか戸惑っていると、水沢さんは慌てた様子を見せた。
「あ、もしいやだったら全然断ってくれても……」
「い、いやそう言う訳じゃなくて」
そんなもの嫌なわけがない。むしろこちらからお願いします!と言いたいくらいだ。
しかしなぜここまでして、『聖女様』こと、水沢さんが友達になって欲しいです、の告白をしてきたのか、そこがいまいち分からない。
彼女はいつもクラスの中心にいて、誰とでも仲良く、誰からも尊敬されるような存在だ。
一方俺はそんな彼女に関わることすらなく外野からその様子を見るぼっち。
なぜそんな俺に彼女は友達になって欲しいと頼んできたのか。そこを知らなければ彼女の交渉に応じることは出来ない。
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