第46話

私は気高い野良猫なんかよりよっぽど面倒な自信はある。それでも癒されるらしいから、この男は本当に変わっている。



だから、もういいかなって。たとえ私を飼い猫として見ていたとしても、この人の隣が快適であることは間違いない。


 




「……うん。分かった。ちょっとの間だけ、ここに住む」





 

私が素直に了承したのが意外だったのか、新の目がまんまると丸くなっていた。下から新の驚く顔を見上げながら、私は淡々と理由を述べていく。


 



「だって、あの人怯えてた。新、本当はめちゃくちゃ強いんでしょ?だから新のそばが1番安全。離れる理由、ない」


 



そう。これは自分の身を守るための防衛手段。……私の長い尻尾が新の腰に絡みついているけど、それ以上の理由はない。決して。




 

「あ、家のことも手伝う。だからここに置いてください。で、私を守ってください。お願いします」

 




新の腕の中でぺこり、小さく頭を下げた。人にお願いするときは頭を下げるべき。それぐらい私も分かってる。



おそるおそる顔を上げると、そこには花が咲いたような笑みがあった。いつもの気品漂うものではなくて、溢れ出ちゃったみたいな満面の笑顔。普段より幼く見えるその表情に、私の胸の奥できゅうっと音が鳴る。





「よろしくね、モネ。ここで楽しく暮らそう」

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