またやらかしたら、この世界ではもう生きていけないでしょうね。

木全伸治

第1話ナメクジ

梅雨時になると、どこからともなく浴室などにナメクジが入り込む様になった。ま、安さで選んだ古いアパートだったから、対して気にしていなかった。見つけたら、塩をかけて小さくなったところをテッシュでつまんでゴミとして捨てていた。

だが、その日は、集中豪雨でかなりジメジメムシムシとして寝苦しい夜だった。目覚ましの音が鳴ったが、部屋が暗かった。

おかしいなと思いつ、布団から起き上がろうとして、指先にネチャッという気持ちの悪い感触がした。

何を触ったのか確認しようと、部屋にぶら下がっている蛍光灯の紐を引っ張った。一応、多少は明るくなった。だが、部屋の蛍光灯にはびっしりとナメクジが張り付き、そのナメクジの隙間からこぼれる光で、何とか部屋の惨状を理解した。蛍光灯だけではなく、俺の寝ていた布団の周り、天上、壁や畳の上にそいつはびっしりといた。

「うわっ!」

俺は慌ててその部屋から飛び出そうとした。が、ネチャッとナメクジを踏んでしまい、そのためずるっと派手にナメクジの上に転んだ。そいつらが、肉食だとは知らなかった。骨だけ残して奇麗に食らいつくされたので、梅雨が終わり、雨が上がって、夏空が広がってから、家賃未払いでようやく大家が様子を見に来て白骨化した俺を見つけた。

不思議なことに、部屋の中にあれだけいたナメクジは、雨上がりの空のように奇麗に消えていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る