進めよ、乙女

第84話

「もしもし」


『華子、今どこにいるのー?』




スマホを耳に当てるとのんびりとした声が聞こえてくる。その声の主は家のソファーで寛ぎながら電話をしているんだろう。




「どこって、買い物してるよ。どうしたの、お姉ちゃん」


『お母さんがゴミ袋無くなったから買って帰ってきてだってさ』


「はいはい、わかった」


『ちゃんと買ってきてよー?あと、私にお菓子もお願ーい』




絶対本来の目的はそれでしょ、と言いたくなるのを堪えて電話を切った。


夏のコスメを買いたくて駅前近くに買い物しに来たというのにおつかいまで頼まれるとは。


冷房の効いている涼しい部屋でいる姉の姿を想像して少し憎たらしく感じた。


姉なのに甘え上手なのは何なんだろうか。



夏らしいオレンジ色のティントとブラウンのマスカラを買ってからスーパーに向かい、ゴミ袋とお菓子を買って外に出た。


ほんのちょっと外に出ただけで暑さのせいで汗が出てくる。


ノースリーブのワンピースに、サンダルといったいかにも夏全開な格好をしていても暑いものは暑い。

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