第57話

「こう見えて私、まだ1度も告られたことないんだからね!?モテると思ったら大間違いだよ!」


「慰めにくいこと言うな」




片手で軽く小突かれる。


警戒心も何もそんなの持たなくても実際には困らない。好きなってくれる人がいないんだから。



鞄の中から取り出したスマホの画面をタップすると、帰りのバスが来るまであと1分の時間になっていた。




「送ってくれてありがとう」


「あぁ。帰ったらちゃんと風呂入れよ」


「お母さん?」


「誰がお母さんだ」




会話で戯れていれば、バスが道の向こうに見えてゆっくりとバス停で止まった。


雨の日だからか車内にはいつもより人が多い。


乗車口が音を立てて開き、バイバイの時間が来てしまう。



ベンチから腰を上げてバスに近づいて振り返り、




「また明日!」




送ってくれた芹沢くんに精一杯の笑顔を向けてブンブンと大きく手を振れば、「早く乗れ」とあしらわれる。


バスが動き出し、その姿は段々と小さくなっていく。




「──ああ、やっぱり好きかも」

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