大学生のころに住んでいたマンションの話

佐藤宇佳子

まえがき

 僕が通っていた大学は、空知そらち地方のB市にありました。ええ、かつて炭鉱で栄えた町です。今じゃすっかり寂れてしまい、大学も閉校してしまったそうですが、僕が大学生だった当時は、まだそこそこ賑やかだったんですよ。もちろん、そのころだって、閉山してから三十年はたっていましたからね、華やかなりしころの勢いには比べるべくもなかったでしょう。それでも大学の付近には若者が集い、ある種の活気に満ちていたものです。


 そのB市の町はずれにある五階建てマンションの四階に僕は住んでいました。白い外壁が印象的な美しいマンションでした。一階と二階が建設会社の事務所になっていて、三階から五階までが賃貸になっていました。部屋数は全部で十二部屋くらいかな、比較的小規模な賃貸住宅でした。とはいえマンションですから、鉄筋コンクリートの、壁も床もそこそこしっかりした造りです。防音もきちんとしていましたよ。


 ええ、北海道ですから、窓は二重窓です。ガスファンヒーターもついていました。残念なことに窓は東向きだったのですが、午前中いっぱいは暖かい日差しが差し込む1DKでした。あ、西向きの部屋って本州じゃあ嫌われるようですが、北海道では人気なんですよ。冬は日が入らないと寒いですから。


 階段を四階まで上がって共用の内廊下を右に折れたすぐが僕の住む402号室でした。玄関扉を開けると、半畳たらずの玄関ホールになっていて、右手に靴棚、左手にトイレの扉、正面に部屋に入るための扉がありました。広さですか? 30㎡足らずでしたね。


 え? 賃貸で玄関ホールがあるのって、珍しいんですか? へえ、そうですか。ワンルームマンションや安っぽいアパートでも、二重扉構造の玄関ホール付きが多かったですけどね。これって、北国ならではだったんですか。


 築浅ちくあさのがっしりした造りには安心感がありました。大きな国道に近いので、夜はちょっとうるさかったけれど、我慢できないほどではありませんでした。大学からかなり離れていましたが、僕は歩くのが苦にならないたちなので、それも気になりませんでした。だから、家賃が破格に安いのを見て、一も二もなく契約したんです。


 住み心地ですか? 悪くなかったですよ。ただ、不思議な出来事がいくつかおきました。はは、ぜんぜん怖い話なんかじゃないんです。でも、ふつうなら経験しないようなできごとかな。


 ご興味ありますか? じゃあ、思い出してみましょうか。

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