第7話



 …あれ?



 もう長いこと住んでるから、町の景色は頭の中に入っていた。


 橋の向こうに見える市内の街並みも、川沿いに流れていく、穏やかな風の通り道も。


 府中町は田んぼもあって、すぐ近くに山が見える。


 川向こうに伸びていく土手の景色は、私の地元の町並みと、少しだけ似ている雰囲気があった。


 山陽本線の線路と、トタン屋根でできた車屋。


 高架下を抜けて、マンションやアパートが立ち並ぶ路地を歩いてた。


 路地の中にいくつか瓦屋根の家があって、ブロック塀の向こうに見える洗濯物が、ひらひらと風に揺られてた。



 一瞬、視線が止まった。



 駅へと続く路地の向こうには、白いスレート壁の工場が、緑のフェンスの向こうに建てられていたはずだった。


 それなのに、見覚えのない錆びた茶色いフェンスが、工場側に入る筋の十字路の角から続いていた。


 それだけじゃない。


 木の壁でできた家と、電柱と。


 舗装のできていない砂利道に、見覚えのない平屋。



 …なに、ここ…



 後ろを振り返ると、さっきまでの景色が消えていた。


 突然だった。


 突然、目の前から消えて無くなった。


 広島高速の高架も、見慣れた駅前のパーキングも。

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