第4話



 ……………………



 ………………



 …うそ……でしょ……?




 目が点になった。


 眠たくてしょうがなかった頭が、急に覚めた。


 「晴翔」


 その言葉が、——名前が、電話越しに聞こえてきた。


 あり得るわけない、って、思えた。


 晴翔はクラスメイトで、私が高校に入ってから、初めてできた友達だった。


 ハル。


 彼のことを、そう呼んでた。



 …そういえば



 私はハッとなって、昨日のことを思い出した。


 彼から電話がかかっていた。


 当時私と彼は喧嘩中で、口も聞きたくないと思っていた。


 なんで喧嘩してたのか、なんでそんなにムキになってたのかは、今となっては思い出せない。


 ただ、確かだったのは、あの頃、あの地平線の続く空の下で、別々の道を歩もうとしている私たちがいた。


 私たちは、お互いの時間でいっぱいいっぱいだった。


 私自身は、人生で初めて挫折を味わっていた時期だった。


 彼は彼で、自分の夢を追いかけていた。





 …もしも時間を戻せるなら、きっと私は、あの日、——あの事故の前日の電話を、無視することはなかっただろう。


 “何を話せばいいんだろう”って思うよ?


 だって、絶賛喧嘩中だったわけだし。


 何しにかけてきたの?


 そういう感情が、ずっと頭の中にあった。


 絶対出てやるもんかって思った。


 だから、結局出なかったんだ。


 彼からの電話は2回あった。


 その、どちらも。

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