第9話 球技大会

今日は球技大会。

クラスが盛り上がっているなか僕は一人で携帯を触っていた。


「ねぇ、あれ見た」

「見た見た、やばいよね」

「流石に可哀想」


クラスの何人かが話しているのが聞こえた。

可哀想?誰かが不幸に見舞われたのか?

僕がそう思ったとき、一通のメッセージが来た。


『廊下の掲示板みた!?』


佐藤さんからだった。

掲示板?今日は掲示板には球技大会のメンバー用紙しか貼られてないはず。


『見なくても僕は補欠だから特に関係ないよ』


僕はそう送ったが、


『君、補欠じゃなくてバレーのメインメンバーに名前があるよ!』


え!?


僕は慌てて廊下の掲示板を見に行った。


「本当だ...」


僕はきちんと補欠に名前を書いたはずだ。

なのにどうしてメインメンバーに、ましてバレーなんかに。


クラスの僕から遠い所からクスクスと笑い声が聞こえてくる。

その正体は斎藤遊真たちだった。


「おい遊真、なんか陰キャくんがバレーに出るらしいぞ」

「ほんとだなー」

「おーい陰キャくんもしも俺たちと対戦する時はよろしく〜」

「まぁ、そこまで勝ち上がれないか」


佐藤くんたちは遠いところから僕を煽っていた。


〜球技大会スタート〜


A1 A2 A3 A4

  ___       ___      ___ ___

  │   │      │   │     │   │     │   │

1組A  3組B   2組A  4組B   4組A  1組B  3組A 2組B 



【勝ち】 【負け】

B1 B2 C1 C2

  ___       ___      ___ ___

  │   │      │  │     │   │     │   │

 A1  A3     A2   A4    A1   A3     A2   A4 



【勝ち】 【負け】

  1位        5位 3位       7位

___       ___       ___ ___

  │   │      │  │     │   │     │   │

B1   B2 C1 C2 B1   B2 C1 C2

2位        6位 4位     8位


僕らの一回戦目は4組A。斎藤遊真と対戦するのは2回戦目だ。


1回戦目、

「峰田、何もするな」

「端っこに居てくれ」


僕はそう言われお言葉に甘えさせて貰うことにした。


どうやら同じチームの石田くんはご立腹らしい。

気持ちはわかる。勝つつもりでいたのに当日になれば嫌われ者がチームに入っているなんて誰がされても怒る。でもせめて本人の前ではわからないようにしてくれ。犯人は僕ではないのだから。


石田くんがスパイクをきめる。

僕は後ろのほうで一人拍手をした。


「次、サーブ」


そう言われて僕はボールを渡された。

どうせなら、ジャンプサーブでもしてやろうか。僕はそう思ったが、


「いれるだけで良いからな」


僕は釘を刺された。

僕は頷き、アンダーサーブをした。



「おぉ、勝った」

25-20で僕たちは勝った。

バレー経験者の石井くんがいたのは大きかった。


今回はゆるい球技大会だからなのかローテーションはなしで交互にサーブを打つだけだったためすべて石井くんにボールを集めた。


石井くんはとても息が上がっていた。それもそのはず、僕と変えられた人が石井くんと同じバレー経験者だったがその人が居ないためほとんど石井くんが一人で拾って、スパイクも一人で行っていた。「大変そう」僕はそれしか思わなかった。


「おぉ勝ったのか」


斎藤遊真が煽りに来た。

斎藤遊真たちは3組Bに25-10で勝っていた。流石に現役のバレー部が4人もいると試合内容も違う。


「次はちゃんと楽しませてくれよー」


斎藤遊真は笑いながらいってしまった。

どうせ僕は端っこにいるので試合は負けるとおもった。


2回戦目、

僕等はメンバーが変わっていた。さっきのメンバーの一人が怪我をして僕と変わったはずの経験者の福田くんが入っていた。


しかしこのメンバーでも斎藤遊真のチームには勝てないと思う。


「峰田はさっきと同じでいいから」


僕は石井くんの指示通りに端にいることにした。

試合は一方的だった。僕等のチームはスパイクを打つのは石井くんか福田くんだけなので、すぐブロックにつかまってしまう。


18-8


ほぼ僕等の負けが確定。ここで僕のサーブ。僕はこの試合、端にいるだけなので負けてもなにも思わない。このサーブも入れるだけにしようと思った。

その時、


「がんばれ!!!!!」


応援する声が聞こえた。この声は最近僕が一番耳にしてる声だった。

見なくてもわかる佐藤さんだ。


「さとーさーん」


佐藤さんの応援に斎藤遊真のチームが反応する。でも、多分、佐藤さんは僕を応援してくれてるのだと思った。間違ってたら恥ずかしいけど。


僕は応援に答えることにした。


エンドラインから5歩だけ歩いて、ボールを3回つく。そしてほどよい高さまでボールを上げる。


僕はラインギリギリを狙ってボールを叩いた。

僕が叩いたボールが地面につき体育館中に大きな音が響いた。


判定はアウト。


ギリギリ、ラインの外だったらしい。


僕は少し悔しがり、自陣のコートに入った。


僕はここで体育館が静まりかえっていたこと、僕が注目されていることにはじめて気がついた。でも僕はそれを覚悟の上であのサーブを打った。失敗したけど。


相手のサーブから始まる。石井くんが拾って、福田くんがトスを上げる。

さっきの試合よりはスムーズだが、相手は現役バレー部が4人、そう上手くはいかない。石井くんがリバウンドをしてボールを自陣に戻しもう一度福田くんがトスを上げようとする。


「バック!!」


僕はできる限り声を張った。


ビックリした福田くんはとっさにバックセンターにボールを上げた。

斎藤遊真たちは予想外だったためバラバラのままブロックに飛んでくる。


僕はその隙を見逃さずボールを相手コートに叩きつける。


「「おぉ〜」」


僕はとても注目された。しかし、それは応援してくれる人のためだと思い諦めた。

そのあと、試合は順調に進んだ。ボールを拾う人が増え、攻撃の選択肢も増えた。僕たちは1点も取られることもなく逆点しそのまま25点までいった。結果は、


19-25


で、僕たちの逆転勝ち。

斎藤遊真たちはとても悔しそうだったが僕は褒めてくれるチームメイトたちと一緒に喜んだ。


その後、僕たちは優勝した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


いつもの川沿い、


「おめでと」


佐藤さんがいつも通り、本を読みながら褒めてくれる。


「ありがとう」


僕は久しぶりに褒められたので少し恥ずかしかった。


「でも君がバレーできるなんて知らなかった」


「誰にも言ってないからね」


「バレーはもうしないの?」


佐藤さんは当たり前のような質問をする。あれだけバレーができるのにしないほうが普通はおかしいのだから。普通は。


「もう、しないかな」


「そっか」


佐藤さんは察してくれたみたいで深くは聞かないでくれた。


「でも初めから本気でしてたら楽に勝てたんじゃないの?」


「それは...」


僕は何も言えなかった。


「言いたくなかったらいいよ」


佐藤さんが気を使ってくれる。


「言いたくないわけじゃないけど...」


僕は勇気を出して言うことにした。


「応援が...」

「応援が聞こえたからそれに答えただけ」


僕は顔を真っ赤にしていった。


「そ、そう」


佐藤さんは別の方を向いて返事をする。


このとき、僕たちは夕日のせいなのかそれとも恥ずかしくてなのかそれは本人たちにしか分からないけれど、とても顔が真っ赤だった。

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