第6話 本音

「最近、楽しそうだね」


僕がいつもの川沿いにいると彼女(佐藤凪沙)は僕に言った。


「楽しそう?」

「僕が?」


「うん」


彼女の言う通りかもしれない。

最近は前よりは楽しいかもしれない。


あのバイトでの出来事があってから斎藤遊真たちからのイジメが起こってないからだ。

相当、後藤さんの言葉が効いたんだろう。

最近のバイトも前よりも楽しく思える。


「まぁ前と比べたら少し楽しいかもしれない」


「そうなんだ」


彼女は何を言いたいのかわからない。


「じゃあ今も死にたいって思うの?」


佐藤さんが唐突に聞く。


「今?」

「今そこまでかな」


僕はこの返事でいいと思った。最近はイジメもないから楽しい。前ほど「死にたい」と思うことはなかったから。しかし、


「そうなんだ」

「その程度だったんだ」


彼女のこの言葉に少し苛ついた。


「どういう意味だ?」


「そのままの意味だよ」

「君の死にたいって気持ちはその場だけの気持ちで全然浅はかなことだったんだね」


彼女は僕を煽っているのか?

それともなにかを言いたいのか?


「佐藤さんに僕のなにがわかるんだよ」


僕はそろそろ切れそうだった。


「僕の気持ちがわかりもしないのに勝手なこと言わないでほしいんだけど」


「君の気持ちなんかわからないよ」

「ただ、今わかるのは君が死ぬと言っていたことは嘘だったと言うことだけ」


「は?」

「なんでそんな事を言いきれるんだよ」


僕は今までにないくらい苛ついていた。


「だって思えば君、いままで私に向かって一言も『死』って言葉を言ってないでしょ」

「死ぬのが怖いからだと最初は思っていた。けど違った」

「さっきの質問、前ならすぐに『うん』って言ってたのに一番最悪な答えが帰ってきた」

「だから君の死にたいって気持ちはその程度の冗談な感じだったんでしょ」


僕は抑えていた気持ちが我慢できなくなった。


「お前に...お前に僕の気持ちのなにがわかるんだよ!!!!」

「学校にいけばいじめられて、家に帰っても誰も迎えてくれない」

「唯一の父親からは毎日のように怒鳴られ、殴られ」

「誰一人、神さえも助けてくれない」

「今のこのなんともない日常がとても楽しいなんて君にわかるか!?」


僕は彼女に問う。


「わからない」


「だろうね!」

「君は僕と違ってすべて持っている。」

「一人で居てもチヤホヤされて、何もしなくても周りがよってくる」

「どうせ家でも裕福な暮らしをしてるんでしょ!?」

「それなのに、『死ぬなら私も一緒に』とか」

「ふざけるな!!!」


僕は言いたいこと思っていること全部いった。

初めて人に僕の気持ちをぶつけた。

僕は少しスッキリしていた。


「...こと言うな」


ん?彼女が何か言おうとしている。


「勝手なこと言うな!!」


僕はビックリした。あの物静かな彼女がこんな大きな声を出すとは思って無かったから。


「私が全て持ってる!?」

「ふざけないで!」

「あなたこそ私の何を知ってるっていうの!?」

「私がこれまでどれほど寂しい思いをしてきたか、あなたはわからないでしょ!」


「え......?」


僕は彼女にとても失礼な事をいってしまったらしい。

僕は言葉が出なかった。


「今日は帰る!」


彼女はそう言って一人帰っていった。

彼女が帰る時少し涙が溢れていた事に僕は気がついた。



その日の夜、

彼女から一通の連絡がきた。


『しばらく川沿いにはいきません』


こんな時でも彼女はしっかりと連絡はくれた。

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