緊急雇用創出事業

@kawakawatoshitoshi

第1話

 公道に看板が10cm以上出てると、役所に金を取られる。

 それを目視で出てるかどうか見て回るのが、俺の今の仕事だ。


 そんなの目視で正確にわかるわけない。

 みんな大体だ。

 あまりにも目立つものだけ報告する。

 出る杭は打たれるってヤツ。


 不況で失業者が溢れ、

 政府が考えだした緊急雇用なんたらとかいうのが、この仕事だ。


 朝、駅に着く。

 指定されたエリアをただただ歩き回って看板を見る。

 夕方ごろに今日の報告を会社に電話する。

 仕事の内容はそんなところだ。


 俺はその日、駅に着いても歩き出さなかった。疲れ過ぎていた。

 血の気が引くような疲れだったので、さすがにベンチに座り、通り過ぎていく人波を見ていた。


(俺はいったい何をやってるんだ?コイツらはそこそこの給料を貰って、嫁と子供がいて、普通に生活してるってのに。オマケに不倫でもしてウハウハかもしれない。それに比べ俺はといえばド底辺のクソ仕事しかなく、正社員の仕事など受けても受けてもちっとも受からない。クソの上にクソを乗っけられるようなことばかりじゃねえか!)


 しばらくして、いくらか気分が良くなってきたので歩きだした。


(底辺の仕事だって全然楽じゃない。)


 同じビルの看板を昨日も今日も見る。

 何個か看板がぶら下がっていて、昨日とは違う会社の看板を見る。

 ビルの一階の窓の中から、事務員だかが、こっちを見て何か話している。

「また、なんか来てるわよ。何かしらね?気持ち悪い。」

 とでも噂してそうな目だ。


 俺は知らない街を歩き回る。

 知らない景色を見るのは嫌いじゃない。


 川を見て、看板を見て、知らない公園で昼飯を食う。そしてまた歩き回る。


 夕方になると疲労と情けなさと、あと何かで泣きそうになったが涙は出ない。


 俺は疲れ果て、

 公園のベンチに座り、

 ボーッと夕陽を見ていた。








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