「本」「酒」「再会」

 本の声が聞こえる友人が本屋を始めたと聞いたので、私は地元の酒を片手に彼の店へと馳せ参じた。直接会うのは三年振りだったが変わらぬ笑顔で迎え入れてくれた。

 彼いわく、この店は未読本買取販売専門店、らしい。新品で買いはしたが、結局読まなかった本のみを買い取るのだと言う。未読本かどうかは本自身が教えてくれるので査定は容易なのだ、と友人はグラスの酒を揺らして笑った。


「君だけに教えるけれどね。ここは心に傷を負った未読本たちを癒すためだけに作ったんだ。やつらはみんな寂しさを拗らせている」


 身に覚えがあった私は、友人の言葉にどきりとした。

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