第29話 学院選抜試験①説明会

□放課後、自室にて(天城咲良)


「ふふふ。グッジョブね、私」

えりりんが私に誇ったような笑顔を向ける。

まぁ、それは同意するけども、褒めるのはなんか違う気がして曖昧な表情を返す。


「あれ~?咲良~ほら、ありがとうは?」

「うぅ……ありがとう」

しかしそんな私の反応ではえりりんは満足しなかったみたい。

でも素直に認めるのは恥ずかしいのだ。


「ふふふ」

「むぅ~」

そんな私にまたつんつんしてくるえりりん。


「感謝は……してるよ?」

「えっへん!」

もう。にやにやして。


「まぁ、やっぱり仲良くなるのは名前で呼び合うのに限るよね。ほら、練習しとこ?」

「練習!?」

「そうだよ。燈真くんの前で『とっ、とっ、とっ……』とかやるわけにはいかないでしょ?」

「むぅ~」

それは確かにそうだけども……練習???


「ほら、私が言うから繰り返してね。リピ~トア~フタ~ミ~オーケー?」

「うっ、うん」

「燈真……」

「とっ、燈真?……くん」

「ぶぶー!ダメでーす!ちゃんと繰り返すのよ!」

「えぇ~」

いきなり呼び捨てとか、そんなのを使うのはまだ先のはずよ!?


「燈真……」

そんな私の心の羞恥は全く考慮せず、再び呼び捨てを強要してくるえりりん。


「とっ、燈真……(くん)」

「今なんか最後についてなかった???」

「だって~」

「ピピー!減点です!イエローカードです!!」

「どういうことなの!?」

減点はまだわかるけど、イエローカードの意味が分からない。なんなら今はもう退場でいいからレッドでいいんだよ?


「はい、もう一回ね……燈真……」

「燈真……」

「愛してるわ……」

「あっ?あいしてるわ????」

「抱いて……」

「えりりんのバカーーーーー!!!!!!!!!!!」

「あはははははは」

「もう!からかって~!!!!」

「ごめんごめん~きゃ~~~」



□生徒会室(生徒会長 白石玲奈)


まったく、これだから協調性のない生徒は困る。

夢乃間たち……いや、天城が参加するのは確定だ。なにせ学院選抜試験なんだから、パーティーを既に組んでいるものは全員参加権がある。

周囲に害があるからと言って誰かを除外する理由になんかならない。


その力は探索には有用なんだから活用しなければならない。

それに負けるのは自分が弱いからだ。


なんていうセリフは生徒会長の私か、校長や責任ある先生たちのセリフなんだよ。


どうして絡まれたからと言って速攻でお前が言うんだ。

もめ事の種にしかならないだろう。


案の定、溝口がキレた。


「あぁん?もっぺん言ってみろよコラァ!!!」

「何度でも言いますよ?怖いんですか?」

「いい度胸だてめぇ!!!!」

「ふん」

あろうことか溝口は魔力を纏って殴りかかり、夢乃間は平然と魔力を纏った腕で防御する。

険しい表情でにらみ合いながら舌戦から自然な流れで殴り合いに移行するんじゃない。


「なにやってるのよ!!!?」

「あっ、すみません。つい」

「ついだと!?表出ろ!思い知らせてやる!」

「僕はここでも構いませんよ?怖いんですか?」

「てめぇえぇぇえええぇぇえええええええ!!!!!」

「やめなさい!!!」

私は全力で大声を上げて2人を止めた。


これ以上ここでやるなら私にも覚悟があるぞ?

「どっちも失格になりたいのか?それともここで私とやるか?選べ」

「くっ……わかったよ」

「別に僕は構いませんが?」

誰か止めてほしい、このバカを。


大人しい性格だったはずではないだろうか?

転入時の調査書でも、前回前々回のイレギュラー対応の報告書でも大人しく真面目で優しく的確で冷静だったと書かれていたのに……。


「やめなさい。夢乃間くんは天城さんを攻撃されて怒るのはわかるが、私はこの場で争うなと言っているだけだ。わかるか?」

「あっ、はい。すみません、熱くなりました」

「素直でよろしい。仲間を侮辱されて怒る気持ちはわかる。溝口も謝れ」

「なんで俺が……」

「ん?」

「わかったよ。すみませんでした」

ふぅ。やっと収まったか。


今この場でする説明など、もうほぼない。

だが明日になれば未知の状態になったダンジョンに挑む者どうしだ。


交流を図る必要はないまでも、学院選抜試験だからと競争だけをするのではなく、助け合う必要もあるかもしれない。

だけど、失敗だったな。


勝手に学院選抜試験にした国へ文句を言いたい気持ちでいっぱいだ。


すでにお父様経由でクレームを入れたが、効果があるだろうか?


「もしかしたら競争だけになるかもしれないが、逆に協力が必要になる可能性もある。君たちなら足を引っ張ることはないだろうが、くれぐれも緊張感は持ってほしいものだな」

「……」

ようやく落ち着いたところで矢吹が発現する。

こいつらは冷静だな。


ただ、あまり良い噂はない連中だ。クラスの中でのダンジョン探索実習のことだから真相はわからないが、クラスメイトを盾にしたとか、いじめをやっているとかそう言った噂もある連中だ。警戒は必要だろう。



そう思うと信頼できるのは夢乃間くんのパーティーだけだ。

明日は生徒会長として先陣を切って進むしかないな。


「では解散する。明日は朝7時にダンジョン入り口前に集合だ。今日は良く休んで明日に備えてくれ」

「はい」

答えてくれたのが夢乃間くんだけとか……。


しかも挨拶もせずに出ていく矢吹と溝口。なんなんだあいつらは。


夢乃間くんは挨拶と一礼をしてから出て行った。



「私は負けない!!!」

「会長?」

叫ばずにはいられなかったが、そう言えば三崎副会長……いたんだったね。

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