第27話 頑張っていこう!
昼食の後、僕らは会議室を借りた。
この学院はダンジョン探索実習を固定に近いパーティーで進めていくことから、大小さまざまなスペースが設けられている。
通路に適当に机といすを並べただけの場所もあるが、仕切って個室にしてある小部屋なんかもある。
今回のことは一応公開されてはいるものの、相談の内容は試験対策につながる可能性もあるため、念のため借りたんだ。
「夢乃間くん、ありがとね」
「ん?何の話?」
「あのとき。溝口って人が、私の"魔力放出"のことで文句を言ってた時、庇ってくれたでしょ?」
「あぁ。間に立っただけだよ?生徒会長と矢吹って人の会話で収まったから」
「ううん。でも嬉しかったの。ありがとう♡」
「あぁ。なら良かった」
大柄な上級生に睨まれるというのは少し怖かったようだ。こういうのはモンスターと戦うのとはまた別の感覚だよね。恐ろしさで言えば悪夢の王の方がよっぽどだと思うんだけど。
でも、感謝されて悪い気はしない。
今も手をつないだままだし、なんという役得。天は真面目に生きている僕のことをきっと見ていたんだな。なんなら抱え込まれている腕に全神経を集中させている。
「ちょっと~私もいるんですけど。甘い空間自動生成機能とかいらないんですけど」
「あっ、ごっ、ごめんね、えりりん」
「いいのよ。嫌な視線を向けてくる大人げない上級生が悪いんだし、気にしちゃダメよ」
ぱっと天城さんの手が……体が僕から離れていく。
切ない……。
鞘村さんからつんつんされているから仕方ないけども……。
けどまぁ、せっかく小部屋を借りたのに遊んでばっかりじゃマズいよね。
幸せな時間すぎてヤバいけど、真面目に考えないと。
っていうか、小部屋が小部屋すぎてあんまり離れなかった。むしろ近い。
そして鞘村さんも近い……。
えっと、この部屋、永久に貸し切れないかな???
「それにしてもいきなり学院選抜試験とはね」
つんつんしてくる鞘村さんの腕を掴んで押し返しながら天城さんが話題を逸らそうとした。
「そもそも学院選抜試験について教えて欲しいんだけども」
「わかってなかったのかよ!?」
そして鞘村さんに突っ込まれた。
えっ?そんなに有名なの?
「のんびり適度にまったりが目標で、鬼女から隠れるために来た僕が知ってるわけないよね?」
「なんでそんなに偉そうなのよ」
「いたっ」
酷い。机の下で脛を蹴られた。
距離が近いとこういうこともあるのか……。
「夢乃間くんは東京ダンジョンで行われるバトルロイヤルは知ってる?」
「あぁ。それなら鬼女が出てたのを見たことがある。僕は年齢制限に引っかかって出られなかったけども」
記憶にある。
30パーティー近くが同時に東京ダンジョンの10層に入って、そこで戦うんだ。
最終的に残ったパーティーは優勝者として讃えられる。この大会は天皇陛下の臨席のもとで行われるイベントで、これに勝つと知名度は爆上がりだ。
主に配信を行う探索者が頑張っていた記憶がある。
「なるほど、そう言えば学院からもパーティーが派遣されてたね。派遣されるパーティーを決めるのか」
「そういうこと。パーティーとしての強度や練度が試されるから、確かに今回のような事件対応は試験に相応しいのかもしれないけど」
天城さんは少しだけ首を傾げている。心配なことはわかる。なにせ、どんなモンスターが出てるのか分からないから。
それでも僕たちは探索者であり、いつどんな事件に遭遇するのか分からないんだから、逃げる理由にはならない。
むしろ先生方のサポートがつくのはありがたい。
「それにしても今度はなんだろうね?」
「Aランクのアークデーモン、Sランクの悪夢の王と来たから、次はSSランクかな?」
「鞘村さん、それはさすがに怖いフラグだ……」
それにしてもこんな風に美少女2人と膝を突き合わして話してるなんて、ちょっと前の僕には考えられなかったことだ。
学院って天国みたいだよね。
そんな学院を破壊するようなとんでもない相手じゃないことだけは願っておこう。
「そう言えば、燈真くんってさ」
「うん?」
なんだろう。急に鞘村さんに凝視されると、ちょっとその怖いというか、恥ずかしいというか……。
まさか突然『死ねド変態』とか罵ってきそうな……こんなこと言ったら怒られるよね。
「その、鞘村さん、天城さんって呼び方が固いよ。咲良もか。いい?私たちはパーティーを組んだんだよね?だったら、燈真、咲良、絵里奈にしよ。呼び方。咲良もいいよね?」
えっ、いいの?そんな風に下の名前で呼び合うのは嬉しいけど、僕みたいな暗めなやつが『よぉ、咲良。おはよう』なんて陽キャみたいなことを言って許されるんだろうか???
「えっ、うん」
そして天城さんも驚いているようだった。むしろ、ちょっとむせた。どうでもいいけど天城さんの持ってるペットボトルになりたい……。
「決まりね。べつにくんとかちゃんとかさんとかつけてもいいけど、呼ぶのは名前にしよ♪」
「わっ、わかった。よろしくね……燈真くん♡」
僕はそのままノックアウトされてしまったので、2人の名前を呼ぶことはできなかった。
というのは冗談で、昼休みが終わってしまう時間になったので急いで教室に戻った。
なお、午後には学院選抜試験についての代表者への説明会があるということで『お願いね、燈真くん♡』って2人に言われた僕はルンルンしながら出席したよ。
ん?他の生徒に絡まれなかったかって?
そんなどうでもいいこと。もう忘れたよ。
夜にLineで『おやすみ、咲良』って送るのだけは思いとどまった……zzz
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