第12話

「やめてよ!」


「アカネ…」


「そんなこと言われて

私が喜ぶと思うの?


大ちゃんがそんな事したら

誰が私を見送ってくれる

っていうのよ?」


「ごめん、そんなつもりじゃ」


「わかってる。

わかってるけど…


大ちゃんはもっと

自分を大切にして。


私を思ってくれるように

自分を大切にするの」


そう言われて僕は

何て言えばいいのか

わからなかった。


自分を大切に?


アカネがいないのに


自分を大切に

なんて言っていられるか。


それが本音だった。


僕は深く

ため息をついた。


「……世界中の皆が


『せーの』って死んだらさ、

悲しみなんてなくなるのにな」


そう言った僕に

彼女は


「バカね、


それじゃあ

その瞬間


世界中が悲しむじゃない」


まるで全てを悟った

女神のような

どこか余裕すらある

柔らかな表情で笑った。

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