21枚目
「っ……強い!」
爛楽は歯噛みし、敵を睨み付けた。
〈キャンサー〉出現の報せを受け、すぐさま敵の元へと向かった爛楽と結。そこに居たのは巨大な
早く倒してしまおうと思ったのだが、思わぬ苦戦を二人は強いられていた。
「来る! あいつの斬撃!」
大きな二つの鎌が発光した。そして、そこから『
斬撃というより、ビームの類かもしれない。鎌の形状を写し取った、三日月状の光がこちらに銃弾と変わらない速度で迫る。
「くそっ!」
苛立ちを吐き捨てながら爛楽は攻撃を回避する。一瞬前まで爛楽が立っていた空間を斬撃が通過する。その背後に立っていた塀と民家が切断された。あまりにも鮮やかな切断面だった。
この攻撃が身体に命中したらどうなるか。そんな事、わざわざ考えるまでも無かった。故に、攻撃を回避する事に全力を注いでいた。
戦場は比較的低い建物が立ち並ぶ住宅街。ここならばこちらの銃弾を遮る建物は無い。こちらの有利だと踏んでいたのだが蓋を開けて見れば苦戦を強いられている。
「こいつ、今まで戦った中で一番強いわよ!」
爛楽は叫んだ。同じように、必死に斬撃を避ける結がそれに同意する。
「そうみたい! あれだけ強い攻撃を何度もして、エネルギー切れの兆候も無いし……」
結は大きな鋏を手にしているものの、『蟷螂』の絶え間無い攻撃のせいで接近を禁じられていた。間合いまで踏み込む事が出来なければ、その大仰な武器はただの荷物だ。
もう何分これを繰り返しているだろうか。住宅街はぼろぼろだった。切断された建物の残骸が転がり、張り巡らされた電線はその多くが途中で断たれ、先端を地面へと向けている。
爛楽は銃を放った。数発の弾丸が命中する。だが、『蟷螂』はそれを然して気にしている様子も無かった。一切効いていないわけではないと思われるが、この攻撃を続けて敵を倒す為には途方も無い時間が掛かるだろう。それまでにこちらの体力が尽きてしまう。
(相手に触れる事が出来れば『薬』を生成出来る、けど……あの攻撃の隙間を縫って接近するなんて無理! 喰らったら即死でしょあんなの!)
故に、通常の弾丸で対処するしかなかった。しかし、敵の装甲は堅固で、弱点の部位も見付からない。
思考を巡らせる。ほんの数秒。爛楽は決断を下した。
「応援を呼びましょう。理桜さんに連絡するわ。それで、あの二人にも来て貰う」
結に向けて提案する。だが、結はそれに頷かなかった。
「わたしが何とかするよ」
「何とか、ってどうやるのよ。絶えず即死級の攻撃を繰り出されてたら、近付きようが無いわよ」
「大丈夫! 爛楽ちゃんは援護をよろしく!」
「援護って?」
結の言う事は良く分からなかった。彼女は、何をしようとしているのか。
「形状変転:【
結の持つ大きな鋏が二つに分かれた。かと思えば、その二つの持ち手を重ね合わせた。そうして現れたのは両側に刃を持つ大きな剣。持ち手の部分を中心として点対象の形状をしている。
彼女は、前へと出た。その動きにはあまりに迷いが無く、見ていた爛楽の背筋が冷たくなる。
当然ながら、それを近寄らせまいと『蟷螂』は連続して斬撃を放つ。
一撃目。結は身体を捻り、紙一重でそれを回避した。
だが、二撃目。鋭利な攻撃が結の肩口を裂いた。
「結!」
思わず名前を叫ぶ、真っ赤な血が青い空を背景にして散った。
「大丈、夫っ!」
しかし、結の表情に痛みは見て取れなかった。決して小さい傷というわけではないのに、それを然して気に留めていないようだった。
尚も結は『蟷螂』へと向かって進む。攻撃が迫る度、その回避自体は試みている。だが、完全に回避が成功するのはせいぜいその半分。幾つもの斬撃が、結の身体を裂いてゆく。
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