10枚目
「それは無理ですね」
ベッドの上の少女は淡白な調子で言った。
昨日も訪れた病室に、爛楽は結を連れてやって来た。開口一番、理桜に〈メルメディック〉の力を返還出来ないかと申し出たのだが、先の通りの回答があった。
「どうしてよっ!」
理桜に詰め寄る爛楽。
「私はあくまで四島さんの中に眠っていた力を解放させただけです。ですから返還する事は出来ないのです。ちなみに、その力を誰か他人に移譲したり、放棄したりする事も出来ません」
「そんな……」
爛楽は落胆でその場に崩れ落ちた。これから先、ずっとこの変な力を身体に宿したまま生きていかなければいけないという事だ。
「そういえばさ、あんたは〈メルメディック〉とは違うって言ってたけど、どういう事なの?」
ベッドに手を着き、身体を立たせながら問うた。
「私は〈ヘルパーセル〉という存在です。〈メルメディック〉は〈キャンサー〉に対抗する為の戦闘力を有していますが、私はそのサポートの為の能力を数多く持っています。例えば、〈キャンサー〉の出現を感知したり、〈類元空間〉に人々を移動させたりといった事が出来ます」
「それと、〈メルメディック〉の素質がある奴を見付けて、〈覚醒〉させたり?」
「そうです」
「ふうん……まだ良く分かんない事がいっぱいあるんだけど。そもそも、あの〈キャンサー〉って奴は何なの? どこから来て、何を目的としてるわけ?」
爛楽は続けざまに理桜に疑問を浴びせた。この世の条理から外れたものが実在するのだと知ってしまった今になっては、それに関して知らない事があるのが気持ち悪かった。それに、〈メルメディック〉として〈覚醒〉してしまった以上、これから完全に無関係でいる事は出来ないだろうと考えていた。これから何かあった時の為に最低限の知識は身に着けておきたい。
「〈キャンサー〉とはその名の通り、この世界に生じた癌です。この世界が生まれてから非常に長い時が流れています。
つまり、この世界は非常に老いているのです。その為に、秩序を維持する為の力が弱まり、世界を構成する要素に異常が発生し易くなっています。それが〈キャンサー〉です。〈キャンサー〉は放っておけばそのまま成長し、この世界を侵蝕してゆきます。その為、早期に消滅させなくてはなりません。
私はこの世界より〈ヘルパーセル〉としての力を授かり、使命の為に活動をしています」
頭が痛くなるような話だったが、〈キャンサー〉との戦闘を経験した今となっては与太話だと一蹴する事も出来ない。
「……大体は分かったわ。ところで、〈キャンサー〉っていうのは別にこの街だけに出るというわけじゃない、わよね?」
「はい。この街だけでなく、世界中至る所に出現します」
「それだったら、それを倒す為の〈メルメディック〉、あと〈ヘルパーセル〉も世界中に沢山居るって事?」
そう疑問を口にした直後、病室の扉が開く音が聞こえた。
「おやおや、初めて見る娘さんどす」
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