第92話

「・・・大塔宮様と、幸せになって。」






その口から落ちた意外な言葉に、その真意が汲めなくなる。






「誰よりも、お二人は幸せにならなきゃ駄目だ。」






私をじっと見つめて、真白くんはそう言う。





その瞳の奥には、あの支子。




謂わぬ色がさらに色を重ねて濃く揺らぐ。






真意には、触れてはいけない。



それはよくわかっている。




私たちは薄氷の上の関係だって、何となくわかっている。






「・・・大塔宮様と幸せになるわ。大丈夫。」







私もじっとその瞳を見つめて、そう言った。



一言一句はっきりと。





それを聞いて、真白くんは一度俯いた。






「だったら・・・大丈夫だ。」






その唇は薄く横に伸びている。



何が、大丈夫なのか、もう一度問い直そうとした時に、ぐっと袖に力が籠るのを感じて弾みで顔を上げる。





つうっと、その頬に涙が伝うのを見る。






日の光に照らされて、濃い支子に染まる。




思わず、息を、飲んだ。





「・・・ったよ。」



「え?」





その唇が動くのを見る。








「大和に、会ったよ。」









やまとに、あった。



大和に、会った?





大和?






「・・・っっつ!!!」








一気に心臓が握りつぶされて、息ができなくなる感覚が襲う。



見張った目に飛び込んできたのは、私に向かって笑う大和の姿。





苦しくて、たまらない。






不安なのか、嬉しさなのか、全くわからない感情が心の中に満ちて何も考えられなくなる。






「さっき、その門のところまで来てた。」






洪水のようにいろんな感情があふれ出て、残ったのはただ単純明快な感情。




来てた、すぐ、傍まで。





単純明快な感情が胸の奥から溢れて涙になる。







会いたい、ただそれだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る