第81話

「・・・そうだ。あれは足利を警戒して山を降りない。このままではいろいろと厄介なことになる。」







足利を。


俺たちを。





「存じております。大塔宮様が、志貴山を降りないことを憂慮されるのも致し方ないことでございますね。」





御可哀そうに、と、心配しているように瞳を歪めてみる。



後醍醐天皇はそんな俺の反応を見て、自分が感じている感情が間違っていないことを確信する。






「足利は敵対する意志はない。それに相違ないな?」






敵対する意志?


それを聞いて、また頭を下げる。






「ございませぬ。絶対に、足利は帝に敵対する意志など微塵もございませぬ。」






今のところはね。






楽しくなってきたと思ったら、笑いが止まらない。


その笑みが無闇に零れて、怪しまれてはならないと、頭を下げただけ。





敬っているわけでも、


畏れているわけでもない。



全く、ない。






後醍醐天皇に見えない位置で、遠慮なく頬を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る