第79話

本当に、残念。



運命の歯車が狂っていくのを感じる。




大塔宮様が、足利を警戒するあまりに、だんだんと脱線していくのが目に見えるから面白い。






きっと、大塔宮様が破滅していくのはその聡明さゆえ。





先を見通す力が長けすぎているため。




本当に、惜しい人物だよな。



もしも後醍醐天皇が、もっとその存在を、その助言を重用していたら、本当に歴史が変わったかもしれない。





大塔宮様は、自分で自分の首を絞めている。






そう思って、嘲笑った。









後醍醐天皇が無事に東寺に入られると、順に謁見が認められた。


内裏へ御戻りになるのは、どうやら明日らしい。



御戻りになることを喜ばれて、長い長い隊列を組んで、内裏まで練り歩くと聞いた。




後醍醐天皇への拝謁の順番まで時間があったから待っていた時に、突然呼ばれた。






誰だと思っていたら、名和長年が真っ青な顔をして立っていた。






「・・・おぬし、なぜ足利の元にいる?」






そう言った声は震えていた。



それを見て、馬鹿な人間だと思って上から見下ろしながら一度笑う。




意地悪く。






「俺は桜井大和だけれど、高師直と足利家では呼ばれている。俺は足利の人間だよ。」






ケロリとそう言うと、長年はさらに目を見張って顔を青くした。



もう青と言うよりも土色に近かったけれど。






「あ、足利の人間だと?!」





「そうだよ。先の戦は宮方が勝つにはどうしても最後の一手が足りなかった。だから足利を利用したまで。大丈夫だよ、安心して。」





長年は訝しげに俺を見つめる。



まあ、信じろと言っても簡単に信じられるわけがないか。






「で?それだけ言いに来たわけじゃないでしょ?」






そんな馬鹿みたいなこと、言いに来たわけないよね?



笑みを落として、じっと見つめると、長年はふらふらと二・三歩後ずさりをした。






「・・・ご、後醍醐帝が、極秘に会いたいと。」







極秘に。



それを聞いて、上がる頬を抑えられない。






「もちろん拝謁させてもらうよ。」








にっこり笑った俺を見て、長年は苦笑いした。

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