第186話

ドア一枚挟んだすぐ側に麻耶たちがいるのに。


息遣いすら聞こえてしまいそうなほど、すぐ近くで麻耶たちの声が聞こえるのに。



コウくんは、私を離さない。



開けてみよっか、という声が聞こえて、嗚呼もうダメだと覚悟したのに。




「…あれ?開かない」


「ええ?声がしたと思ったのに」


「紫花化粧室かな、先行ってよっか」


「そうだね」




皆がドアの前から離れていく気配を感じる。



ほう、と安心の気持ちを込めた息を吐いて、思いっきり身体を捩じると、今度は簡単に解放してもらえた。




「いつの間に鍵閉めてたの」


「ん、紫花のこと連れ込んだとき」


「見つかるかと思って怖かったんだから」


「久しぶりに会えたのに第一声それなの?」




さっきまでの色気たっぷりのコウくんとはまるで正反対。少し不貞腐れたように甘えるように、私に問いかける。



嗚呼、もう、確かにこんなところは狡い。




「……おかえり、なさい」


「ん、ただいま」


「……、」


「会いたかった」


「…私も」


「知ってる」




当たり前のように、コウくんはそう答える。


私の感情なんて、きっと、彼の意のままに。

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