第92話

体調が崩れるたびに瑛茗大附属病院の内科にお世話になっていたけれど、今回は診療待ちのためのロビーを抜けてエレベーターに乗った。




病院独特の匂いが鼻をくすぐり、子供の頃に感じた病院への拒否反応が瞬時にフラッシュバック。




"8"まであるエレベーターの電光表示が"7"で止まって、重厚で無機質なエレベーターの扉が開く。



個室の階だからか大部屋の活気というかそういうものは皆無で、何だか気が滅入った。




「桐谷会長は最上階の個室にしたかったみたいだけど、どうせ来るなって言っても学生たちが見舞いにくるだろうから7階にしといた」




気が利くだろ?と褒めて欲しそうに子犬のような瞳で私を見下ろす30歳。こんな小娘に褒めて欲しいのか。その思考回路はよく分からない。




最上階は俗的な言い方をすれば、VIPルーム的なもので。大学の理事たちやその家族、有力者たちのために用意してあるらしく普段は空いている。




そんなところに私が1日であっても入院したら、どんな噂が立つのか想像もつかない。



さっきまで少し馬鹿にしていたけど、将司くんの気遣いに心から感謝した。




「ここでーす」




702、と記されたプレートにも妙に高級感が溢れていて。




「広…っ」




将司くんがドアをスライドして開けると、そこにはモダンアジアンの家具で統一された空間が広がっていて思わず目を疑った。

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