第57話

「じゃあ…、本当に…?」


「見ればわかるだろ」


「女には執着しないって!」


「コイツはそんな風に一括りにできるような奴じゃない」




コウくんはそう言って私の肩を引き寄せる。私だって背は低くないけれど、背の高いコウくんと並ぶと肩くらいにしか届かない。




私の髪を梳くようにふわりふわり慈しむように髪を撫でられて、顔に熱が集まる。そんな私たちを驚いたように見つめる彼女。




「何処の家の方なんですか?」


「秘密」




にっこり、コウくんが浮かべた笑みは人間離れしていて天上のもののように麗しく、そして何処までも恐ろしかった。




もう二度と関わらないことを条件に穏便に済ませることになったけれど、私を睨みピンヒールを鳴らしながら去って行く女の人に本当にこのまま終わるのかな、と不安になる。





「あの人、私のこと大人だと思ったのかな?」


「紫花は小学生の頃から大人でも通る容姿だったしな」


「それは言い過ぎ。あんな曖昧な言い方じゃなくて、その…、か、家族、みたいなものって言えば良かったんじゃない?」





―――…きっと、コウくんは《家族》という言葉のために振り絞った私のなけなしの勇気と心の怯えなんて知らない。




「そういう嘘は後々面倒だから嫌」




――――…だから、こんな残酷なことを言えるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る