近似
父はいつも急いで駆け付けた
蔑ろにされた子供時代を
必死に畳の下に押し込めて
ありきたりな息子を演じた
白髪も皺も似てきたのに
そんな話は一度もしないまま
表情を変えない祖父は
優しさも嫉妬も表わさないまま
この世を捨てた
本棚に残されていたのは
祖父が教えてこなかった世界の本
父の本棚に似ていた
大きなデジカメが見つかった
父のものに似ていた
偏屈も偏執も偏見も
親子の証となる近似なのに
ずっと心は弾き合ってしまった
七回忌の日に墓を訪れて
何十人という先祖の骨を拝んだ
この中で祖父は感じているだろうか
足りないものを知っただろうか
あと何年か経って
父もそこを訪れるのです
それまでに言葉を見つけてください
私が目を開くと父はすでに遠くを見ていた
ホテルの洗面台で
鏡の中に白髪を一本見つけた
すでに寝息を立てている父の
皺の位置を確認する
吸い寄せられるように私も似てきているのだ
優しさも嫉妬も浴び続けたから
私は父を見つめることができる
尊敬も嫌悪もなく
道しるべとなる人
父は故郷を去っていく
これが最後になるかもしれなかった
胸に秘めているのだが
いずれ私は祖父の本を取りに行くつもりだ
幸い私には祖父との歴史がない
それでもやはり私と祖父も似ている
冷たいまま終わった関係に
そっと熱を注ぎ込めるのは
私しかいないのだ
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