【詩集】見なかったことにしよう

清水らくは

ラストグローブ

靴下は時折手袋になりたい

多くの日を暗い引き出しで過ごし

使われれば擦り減っていき

汚れれば疎まれ

捨てられる運命を感じ取るのだ

靴下は諦めてはいない

何かの運命が気まぐれに

彼を手袋にするかもしれないのだ


ぐるぐると洗濯機の中を回って

願って願って

蓋が開いたとき

奇跡は起こった

彼は手袋になったのだ

太陽に照らされながら

靴下だったものは感涙をこぼし続けた


その年、冬が来なかった


綺麗に洗われて

真っ暗な引き出しの中で

そんなことは知らずに彼は待ち続けた

時はゆっくりと流れていき

春が来て夏が過ぎ

靴下だったものは少し不安になった

静かだった

ようやく冬が訪れたが

人がいなくなっていた

終わらない冬だった


もはや手袋を必要とする存在はない

それでも彼は待ち続けている

深々と積もる雪の中

自転車のハンドルを握る日を

靴下が全て朽ち果てた世界でも

待ち続けている

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