第29話 反撃

「その傷でまだ動けるんだ!凄いね、君!」


 悪魔は響華に向かってそう言う。しかし、


「あははっ!それしか言うことないんですか!?」


 響華はそう楽しそうに笑いながら言う。

 しかし、そんな笑い声を聞いてもなお悪魔は平然とした様子で話す。


「そういえば、さっきトドメを刺そうとしたんだけど、何故か攻撃が当たらなかったんだ。何か知らない?」


 悪魔が響華にそう訊ねる。すると、そんな質問を聞いた響華は心底楽しそうにこう答えた。


「えぇ、知らないですよ?ただ単に、あなたの狙いが悪かっただけじゃないですか?」


 そう白々しく言う響華。そんな響華の様子を見た悪魔は、


「まぁ、なんでもいいけどね!どうせ君を殺すことに変わりはないんだから!」


 そう言って悪魔は響華に向かって走り始める。


 響華の動体視力ならその動きを目で捉えること自体は出来る。

 だが、今の響華の状態では、それを避けるほどのスピードを出すことも出来ない。

 今の状態で真正面から悪魔と戦えば、確実に負けるであろうことは誰もが予想出来ることであった。


 コメント

 ・やばい!死ぬぞ!?

 ・逃げろ、狂姫!

 ・でもこのままだと避けれないよな……

 ・今の狂姫の状態で意識があるだけ凄いけどな

 ・流石にヤバいか……?


 コメント欄が響華のピンチに完全に絶望に包まれていく。

 しかし、そんな絶望的な状況を前にしてもなお、響華は笑う。


「アハハッ……!」


 そんな余裕そうな表情を浮かべている狂姫に向かって悪魔は凄まじい速度の拳を顔面めがけて振りぬく。

 そして……


「は?」


 そんな間の抜けた声を悪魔は発した。

 何故なら自身の腕が途中で折れ曲がっていたからだ。


「グアアアアアアアァァァァ!!??」


 そして次の瞬間には、そんな絶叫が辺りに響き渡る。ただ腕が折れていただけでは、悪魔もここまで叫ばない。

 だが、悪魔の腕はただ折れているだけでは無かったのだ。骨は砕け、皮膚は裂け、筋肉や血管もぐちゃぐちゃに掻き混ぜられており、人間なら死んでいるであろう状況になっていた。


 コメント

 ・え?何が起きたんだ!?

 ・腕が折れたと思ったら……

 ・何か凄いことになってるんだが!?!?

 ・これもう腕じゃないな……

 ・グロすぎるだろ……


「あ~ぁ、折れちゃいましたね?」


 悪魔の腕を見て響華はそう小馬鹿にしたように笑う姿はまるで、この状況を楽しんでいるかのようだ。そしてそんな響華の様子に悪魔は怒りを覚えながらも、自身が折れた腕を抑えながら言う。


「い、一体何をした……?」


 痛みに苦しみながらそう聞く悪魔の顔には、先ほどまでの余裕など微塵もない。

 そんな悪魔に対して響華はさも当然と言った表情で答える。


「何をって……、普通に攻撃しただけですよ?」


 そんな響華の言葉に悪魔はさらに激昂し、声を荒らげる。


「ふ!ふざけるな!!満身創痍の君が、あんな威力の攻撃なんて放てるわけがない!!」

「そんなに怒らないでくださいよ?ほら、私を殺すんでしょう?なら早く続きを始めましょうよ?」

「クッ……!」


 響華の言葉に悪魔は黙ることしか出来なかった。

 そんな中、コメント欄では……


 コメント

 ・う~ん……これまじ?

 ・正直、終わったと思ってたんだけど……

 ・え……?どうやったんだ?全然見えなかったぞ!?

 ・そもそも避けれるような状況じゃなかったよな……??

 ・だよな??あの満身創痍の状態でどうやって攻撃したんだよ!


 悪魔と同じようにコメント欄では困惑の声で溢れていた。


「さぁ、戦いましょう?」


 そんな視聴者の声などお構いなしに、響華は悪魔に対してそう誘う。

 そんな響華の笑顔は変わらず純粋で、無邪気だったが、悪魔にとっては恐怖そのものであった。

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