地図に載ってない島に行きたい。

日月 希

明日の僕が

無人島に行くなら何を持っていく?

誰でも一回はされた事のある質問だと思う。

かくいう僕もされた事がある

たしかその時はナイフだとか、ライターだとか、そんな適当でありきたりな答えをしたと思う。


でも今日は違う。

今日は一個どころか十個も百個も、何個でも持って行ける。

目標は――僕だけの島、誰も知らない島、

地図にも載っていない。そんな子供の頃に捨てた理想郷を探しに




ホームセンターで積み荷を物色しながら妄想に入り浸る。


島に行ければ、めんどくさい進路や就職なんて考えなくて済むだろう。

川を見つけて、魚を捕って、たまに植物を収穫したりして、そんな毎日を繰り返せば思いの外早く人生も終わることだろう。


これは現実逃避だろうか?


いや、そもそも中学卒業から三年しか経ってないクソガキに進路を考えさせる方がおかしいのだ。


就職とか大学とか、皆楽しそうに語るけど。

僕みたいな、ずっと誰かの猿真似をして生きてきた空っぽ野郎に…そんなの見つからないよ。


それが出来ない僕は逃げるしかない。

大きな社会で生まれたちっぽけなバグ

それが僕だ。

言うなれば生まれた時から人間に向いてない。そんな男なのだ。


クソ、嫌になってきた。

一応、自殺用にロープも買おう

……切れると心配だから三つ買っておくか。




会計を済ませ、5万円分の荷物を部屋へ運びこむ。これが終わればしばらく帰れない。

旅は長くなるだろう。


一度落ち着いて頭の中を整理する。


俺は何で旅に出るんだ?

「大学とか、就職とか、俺には難しすぎる」


何処に旅に出るんだ?

「どこか、自分の…居ていい場所。逃げれる場所。」


う〜ん微妙だ。

出発するには理由が弱い。

旅に出れば長い間、もしかしたら一生かも。そんな間海にいるのに。


本当に大学に行かないと駄目か?

ずっとそう言われたから、それが普通だと思ってるんじゃないか?

本当は行かなくても死なないし、問題なのは就職だけじゃないのか?


そうだ、そうだよ!

行かなくても別に就職出来るじゃないか!

視野が狭まっていた。

危ない危ない。

もうちょっとで途方もない旅に出る所だった


しかしこれで話はシンプル。

今やるべき事は、

不要になった五万円分の荷物の処分と

就職にどう向き合うかだ。

これさえ解決すれば、普通になれるのだ。




就職、就職ね……やりたい事何て無いけど。

そうだな、例えば子供の頃の夢。

……パン屋かな

何でしたかったんだろう?今はしたくない。


きっと小学生だった僕は死んだのだろう。

人の真似事を続けた時、僕個人は死んでいたのだろう。


しかし困った、何がしたいのか分からない。

というか何もしたくない。

でも、しなくちゃ駄目。

そう思うと心臓がキュッとする。


なんで何もしたくないんだ?

子供の頃はしたいと思えたのに。

いつから消極的になったんだろう?

それが分かれば就職できる気がする。

そう、きっとうだ。


誰だって一歩踏み出す為の確信が欲しい。

目隠しで進んで目的地に着く方が変だ。

考えろ、なんでだ?




…過去を思い返してみると、夢を失った一番の原因はメディアだと思う。


よく、テレビやスマホで有名人を見る。

いわゆる成功者

「俺が成功したのは、あの時行動を起こしたから〜」とか、

「〇〇さんに出会えたから〜」とか、

耳障りだけ良い、鳥肌必須の有り難〜いお言葉を言ってる奴だ。


それを見ると、

「あぁ、これが普通なんだな。」

と理由も無く思う。

そうやって成功者ばかりを見てきた僕は過度に失敗を恐れる。


そうやって就職に失敗する事を恐れて、夢も何も無いと思ってるだけ。

要するに他責で生きていたいのだ。


これのせいで何もしたくないと思い込んでるはずだ!そうに違いない。

というかそうだ!

ま、これも他責だけど…。


じゃあまぁ、どんな仕事もやってみれば楽しいのだろうか?

何しても良いか、う〜ん。

とりあえず、思い立ったが吉日。


スマホで適当な正社員の募集を探し、一番上に出てきた地元のペットショップに電話をかける。




意外と相手も丁寧に対応してくれ、1週間後に面接が決まった。

それまでに髪を切って、ちゃんとした服を買って、それで…うん。


やってみると簡単に進んで拍子抜けした。

面接して、受かって、働く。

それだけだった。

それだけに恐れをなして、部屋に隠れたのだ。


それが分かっただけでも、電話して良かった

仮にこれに落ちても、海には行かない。


次の島を探しに、この街を歩くだろう。

所詮人間一人、同じ事。

人間もどきにも明日は来る。


そうだ、皆が大学の勉強をする間に僕はお金を稼ぐ。なんていい気分だ。

諦めた僕の胸は、何処か涼しく重たい。




面接の日は一生来て欲しく無いが、時間は容赦なく迫る。


嫌々散髪へと向かう僕を太陽が睨む。

いつもよりずっと夏の匂いがする。

今までずっと目を背けた物がやけに目につく

小学生の僕が今、帰って来たんだろう。

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地図に載ってない島に行きたい。 日月 希 @hituki-nozomi

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