第36話 光るサークル
ブロッサムは、飛び起きると辺りをキョロキョロ見回した。
「こここここどこ?何時ですの?」
「ここは町の教会です。到着したんですよ。
時間は、朝食が終わったあたりですね。
さあさあ、マーガレット様に恥をかかせたくなければ、しゃんとなさって下さい。」
「ハッ、わたくし今は侍女でしたわ。」
アクアがブロッサムの髪を軽く整える。
それが終わるとブロッサムは、背筋を伸ばして優雅に立ち上がった。
(ブロッサム様って所作は綺麗なのよね。)
アクアはブロッサムの後ろに付き従いながら、誇らしい気持ちになった。
自分では落ちこぼれと思っているブロッサムだが、侯爵令嬢として生きてきた十五年は伊達じゃない。
容姿の美しさもあって大層エレガントだった。
大人びたマーガレットに可憐なブロッサムが付き従う様子は大変絵になる。
マーガレットとエドワードは、教会の司祭の前に来ると礼をとった。
「急な予定変更に快く対応してくださり、感謝します。」
「いやいや、巡礼の聖女を受け入れるのは教会として当然の事。
しかもこの町で生まれ育った者を助けてくださったとか……
今日はここでゆっくりと休んでください。」
司祭への挨拶が済むとエドワードが言った。
「医者と手伝いの聖女達が疲労している。
出発は明日にしよう。」
礼拝や地元住民との交流は夕方以降という事にして、用意された部屋で思い思いに過ごす事になった。
ブロッサムはお昼寝をたっぷりして体調を整えた。
そして夕食を兼ねた歓迎会が始まった。
地元の食材を使った料理を食べながら歓談していると、一人の男が会場に飛び込んできた。
「たたたた大変です!!
町長!!」
「どうしたんだ、歓迎会の最中だぞ。」
「街道の脇に光るサークルが現れました!」
「は?」
間抜けな顔をする町長。
「街道の脇の草地に、光る輪っかが現れたんです。
そりゃあもう、明るく光って昼間のようで!!」
後ろで聞いていた聖騎士達が、一昨日の事を思い出す。
(それって、もしかして……)
「分かりました。
我々が行って調べましょう。
町長、ご同行願えますか?」
エドワードが申し出ると町長は、嬉しそうに頷いた。
「もちろんです。
いやあ、聖騎士様達が来てくださるなんて、こんな心強い事はありませんな。」
町長は面倒な事が嫌いな質なので、内心助かったと思っていた。
「ブロッサム、町長に結界を見せてくれないか?
昨日の防御結界だ。」
「?
分かりましたわ!」
ピンク色の半透明な結界が展開する。
「おおっ、素晴らしい……」
「……なぜ、ブロッサム様の結界を?」
カイがエドワードに小声で訊いた。
「いや、説明が楽になるかと思ってな。
ブロッサムにはマーガレットの側にいて欲しいから、連れていけないし。
では、町長行きましょう。」
着いてみると、やはりアイリスが出産した場所の周りが光っていた。
つまり、マックスが走った跡だ。
「ここにテントを張って、結界で覆ったんですよ。」
「おお!あの聖女様の結界!」
町長は機嫌よく笑っていたが、ある人物が近づいてくると眉をつり上げた。
「ああ!隣町の町長!!
何しにきた!!」
昨日の朝見送ってくれた前の町の町長が、光るサークルを見にやって来たのだ。
「ここはお前の町よりウチに近い、私が管理する!」
前の町の町長がふんぞり返ると、今の町の町長が顔を真っ赤にして怒鳴り返す。
「何をバカな!
ウチの方が近い!
ここは出産を控えた夫婦の聖地になるんだ!
お前らには光る街道があるだろう!」
「なにおう!」
「やるかぁ!!」
ファイティングポーズで向かい合う町長達。
カーン!
誰も鳴らしていないのに、ゴングの音が聞こえた。
髪を引っ掴み、鼻フックをかまし、なんとも低レベルの争いが繰り広げられる。
「このこのっ!」
「痛ててっ!
ウガー!」
「止めんかバカ者!!」
一喝したのは、エドワードの護衛をしている中年の公爵だった。
「争いの元になるなら、王都の教会に管理を委託する!」
「「それはご勘弁を!」」
見事な土下座を決める町長達。
フ〜とため息をつき首を振る公爵。
その場でサークル内に礼拝所を設置することや、医者の常駐が決められた。
サークルの両脇の出店はそれぞれ近い町の管轄となる。
「妊婦が大勢来るなら不測の事態に備えなければならぬ。
側に簡易診療所を作るか。」
王都に近い方の町長がズイッと進み出た。
「ぜひ私の知り合いの医者を!
離島の診療所で長年勤めた、どんな事態にも対応できる万能の男がいます。
若い頃は王都の大病院にもいました。」
もう一人の町長がズズイッと進み出る。
「何を!
儂の知り合いにも陸の孤島と言われた山間の診療所で働いていた男がおるわ!
昔は高位貴族の専属だったから腕は確かだ!」
「二人を交代で勤務させろ。
くれぐれもケンカは無しだ。
王都からも人を出そう。
安全や衛生的に問題がないか調べなければならぬ。」
「「ご随意に……」」
再び地面に額をつける町長達。
「やれやれ……」
公爵は、こめかみを押さえて頭痛を堪えた。
「……なぜ町長達は張り合っているのです?」
聖騎士の一人が町長の側近に訊ねた。
「同じ規模の隣町なので、つい対抗意識が湧いてしまうようなのです。
二人共負けず嫌いな性格でして。」
「そういうものですか……」
その場は地元の者達に任せて聖騎士達は帰って来たが、翌朝の出発予定が昼に変更になった。
聖騎士達がぼやいた。
「何か、スムーズに進まないな。」
「何で二回も道に落下物が散乱しているんだ。」
「二度あることは三度あるって言うし……」
「止めろよ、縁起でもない。」
「往来だぞ、無駄口を止めてシャキッとしろ。」
公爵の一言に聖騎士達は背筋を伸ばす。
「「「はい!」」」
しかし公爵の胸にも、彼らと同じ気持ちはあるのだった。
落ちこぼれ聖女の治癒修行!!一人前目指して頑張ります!! むろむ. @muromu-k
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