姫宮さんと聖地巡礼 二

 亀を見た僕と姫宮は次の水槽へと足を向けた。


「わぁ、すごい綺麗!」


 その場所に一歩足を踏み入れた瞬間、姫宮が感心した様に声を上げた。


 そこの部屋の中央には大きな球体の形をした水槽が置かれていて、その中にはざっと数えても十匹以上ものクラゲがゆらゆらと漂っていた。


 その様子はとても幻想的で、姫宮の言葉に頷くと僕は、「本当にとても綺麗だね」と、呟いた。


 姫宮は水槽に近付くと、「あれ? 瀬戸君、このクラゲ達、全部種類が違うのかな?」と、呟いた。


 姫宮の声を聞いて僕は水槽に近付くと、その隣にあったパネルに目を向けた。


 そこには、水槽の中で泳いでいるクラゲについての説明が記載されていた。


「姫宮さん、どうやらこの水槽にいるクラゲは全部種類が違うみたいだよ」


 僕が言うと、姫宮は感心した様な表情になった。


「へぇ、全部種類が違うんだ。クラゲも沢山種類がいるんだね」


 しばらく見ていると、姫宮が、「そう言えば」と、声を上げた。


「ここって、『キミユメ』のポスターになっていた場所だよね?」


 姫宮にそう言われて、僕はポスターを頭に思い浮かべた。


 ヒロインが描かれているのだが、確かに姫宮の言う通りで、そのヒロインの後ろにはクラゲの水槽があったはずだ。


「そうか、確かにこの丸い水槽も描かれていたね。姫宮さん、よく分かったね」


「このポスターを見てとても綺麗だなって思って記憶に残っていたの。モデルになった場所にこれて良かった」


 そう言って微笑む姫宮を見て、僕はここの幻想的な雰囲気が姫宮にとても合っていると思った。


「……良かったら、姫宮さんの写真を撮ってみても良いかな?」


 僕の言葉に姫宮は少し驚いた表情を浮かべた。


「それって、『キミユメ』のポスターみたいにって事? 私じゃ、あんなに綺麗に写る事が出来ないよ」


「姫宮さんなら絶対に似合うと思うし、それに綺麗に写る事が出来るよ」


 僕が力強く伝えると、姫宮は恥ずかしそうな表情になる。


「……瀬戸君が、その、そこまで言うのなら、は、恥ずかしいけどお願いしようかな」


 慌てた様に言う姫宮に僕は、「ありがとう」と言葉を返すと、ポケットからスマートフォンを取り出した。


 そして、僕はスマートフォンを姫宮に向けて構えると、「何枚か撮るよ」と、声を掛けた。


 姫宮が小さく頷くのを確認してから、僕は何枚か写真を撮った。


 写真を撮り終えると、姫宮がそわそわした様子で僕に近付いて来て、「その、写真はどう?」と、遠慮がちに切り出した。


 僕は微笑みながら、「良い写真だよ」と言って、スマートフォンの画面を姫宮に向けた。


 その写真にはクラゲが優雅に漂っている幻想的な雰囲気の中で少しはにかみながら笑みを浮かべている姫宮が写っていた。


「わぁ、すごい。写真だとまた違って見えるんだね。自分が自分ではないみたい」


「『キメユメ』のヒロインみたいだったよ」


 興奮した様子の姫宮に声を掛けると、姫宮は困った様な笑みを浮かべた。


「それは、流石に言い過ぎだとは思うけど…… でも、撮ってくれてありがとう!」


 姫宮はそう言うと、自分のスマートフォンを取り出した。


「そうしたら、今度は二人で写真を撮ろう!」


 そして、姫宮と一緒に写真を撮っていると、ふいに館内放送が流れた。


 それに耳を傾けると、どうやらこの場所でプロジェクションマッピングのショーが開催されるとの事だった。


 観ていくかどうかを聞こうとして隣に居た姫宮に視線を向けると、期待する様な視線をこちらに向けていた。


「ねぇ、瀬戸君、プロジェクションマッピングだって。絶対に綺麗だから観ていうよ!」


 僕は姫宮のその様子に笑みを浮かべると、「そうしようか」と言って、頷いた。


 その後、数人のスタッフが入って来て準備を始めたので、僕と姫宮はその準備が終わるのを待った。


 やがて、準備が終わったようで、スタッフからまもなく始まりますとのアナウンスがあった。


 そして、次の瞬間、天井にいくつものクラゲが映し出されて、スタッフが一種類ずつ解説をしていく。


 やがて、天井に映し出されたクラゲが消えると、スタッフから終了とのアナウンスがあった。


 僕達が立ち上がって、クラゲのエリアから出ると、姫宮が口を開いた。


「まさか、水族館でプロジェクションマッピングが観れるとは思わなかったけど、すごく良かったね!」


「本当にとても良かった」


 姫宮と話しながら僕は、スマートフォンで時刻を確認した。


「姫宮さん、イルカショーは興味あったりする?」


 僕が言うと、姫宮は目を輝かせながら頷いた。


「うん、興味あるよ! そう言えば、観れるんだっけ?」


「うん、観れるよ。それなら、少し早めだけどイルカショーの会場に行こうか」


「うん、行こ行こ!」



 そして、イルカショーの会場に着くと、「わぁ、すごい! ここから島が見れるんだね」と、驚きの声を上げた。


 イルカショーの会場のすぐ隣はもう海で、姫宮の言う通り島もはっきりと見る事が出来、絶好のロケーションだと感じた。


「今日は晴れているし、こんな良い景色の中でイルカショーを観れると思うと、とても楽しみだね」


 僕はそう言葉を返すと、辺りを見回した。


 まだイルカショーが始まるまで時間があるからか、そこまで席が埋まってはいなかった。


「姫宮さん、どこに座ろうか?」


 僕が尋ねると姫宮は顎に手を当てて考え始めた。


「うーん、そうだね。近くで見たい気持ちはあるけど、島とか海が見える場所も良いな」


 姫宮はそう言うと、「あそこら辺にしよう」と言って、真ん中ら辺の席を指差した。


 確かにあの付近なら、島と海を視界に入れつつ、なるべく近くでショーを観たいという姫宮の希望が両方とも叶える事が出来る場所だろう、と僕は思った。


 そして、僕と姫宮がそこの席に腰を下ろして、どんな感じのイルカショーになるだろうか、と話をしながらしばらく過ごしていると、やがて、まもなくイルカショーが始まるというアナウンスが聞こえてきた。


 そのアナウンスを聞いて、辺りを見回すと多くの人がこの場所に集まって来ており、席もほとんどが埋まっている様であった。


「もう少しだね」


 わくわくした様子で呟いた姫宮に、僕は笑みを浮かべながら頷き返した。


 すると、その瞬間、軽快な曲が流れ始め、ウエットスーツに身を包んだ数人のスタッフが走りながらステージに出てきた。


 そして、スタッフ達の挨拶が終わると、三頭のイルカがステージであるプールに入って来て泳ぎ始めた。


 プールは全面ガラス張りで水中でイルカ達が泳いでいる様子が良く見る事が出来た。


 その流れの中、スタッフが笛を吹きながら指示を出すと、イルカ達は泳ぎながらこちらに向かって手を振ってくれた。


 姫宮が興奮した様子で、「可愛い!」と言う中、スタッフが再び笛を吹くと次の指示を伝えた。


 すると、次の瞬間、イルカ達が一斉にジャンプをした。


「すごいね、瀬戸君!」


「本当だね、近くで観るとすごい迫力があるね!」


 その迫力ある光景を目にして、僕と姫宮は揃って声を上げた。


 そして、その後も、リズムに合わせて踊ったり、スタッフを口先に乗せてジャンプをしたりと様々なパフォーマンスを見せてくれた。


 やがて、ショーが終わると、姫宮は、「楽しかった」と、嬉しそうな顔をしながら呟いた。


 それに対して、「そうだね、イルカも可愛かったし」と言葉を返すと、僕と姫宮は揃ってイルカショーの会場を出た。


「次は何処に行く?」


 姫宮の言葉を聞いて、僕はポケットからスマートフォンを取り出すと、時刻を確認した。


「もう少しでお昼の時間だから、そろそろ島の方に行こうか」


「お腹も空いてきたし、そうしよう」


 そして、僕と姫宮は次の目的地である島に足を向けたのだった。

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