高校デビューに失敗してぼっちが確定した僕、どうやら前世はイケメンだったようで、前世の記憶を持つ超絶美少女から『前世であなたと付き合っていた』と告げられた
穂村大樹(ほむら だいじゅ)
第1幕
第1話 前世で付き合っていたという事実
「ねぇ
高校の入学式を終えた僕は、トイレからの帰り道、入学初日にしてクラスカーストのトップに上り詰めた超絶美少女、
明らかにクラスの端で1人本を読んでいそうなタイプの僕に、クラスカーストトップになった栗花落さんが話しかけてくるだけでも訳がわからないのに、栗花落さんは自分のことを明日見二梛と名乗っている。
その上僕のことを青谷君と呼んでいるが、僕の苗字は青谷ではなく
何が起こっているのか把握することができず狼狽している僕をよそに、栗花落さんは畳み掛けるように訳のわらない発言をし始めた。
「……私、前世であなたと付き合ってたの」
僕は栗花落さんの突拍子の無さすぎる発言に空いた口が塞がらず、その驚きは人生でこれ以上に驚くことがあるのだろうかと思うレベルだった。
そんな矢先、栗花落さんは更なる驚きの発言をして見せた。
「……好き」
「…………え?」
「なっ、ちがっ、美味しいすき焼きが食べたいなって言おうとしただけで--」
「その言い訳は流石に無理があるだろ」
「……ちょっとショックで頭がおかしくなってるだけで誰があなたみたいなぼっち男に好きだなんて! ……大好き」
栗花落さん、あなた二重人格か何かなんですか?
自分の身に何が起こっているのかわからず混乱してしまった僕は考えるのをやめた。
これは陰キャで自分に自信の無い僕、
◆◇
清々しく晴れ渡る空には白い雲がまばらに浮かぶ。
雲が無さすぎるとそれはそれで味気が無く、今日くらい雲がある空の方が僕は好きだ。
空の青と雲の白のコントラストは思わず気分を昂らせる。
しかし、まばらに雲が浮かぶ気持ちのいい空の下を真新しい制服に身を包んで歩く僕の気持ちは曇りきっていた。
僕は人と関わることを苦手とし、口数が少ないせいで学校に行っても教室の端で一人本を読んでいるような生徒なので、高校の入学式という最悪のイベントに向かう足取りが重くなり、気持ちが曇るのは当然なのである。
昨日は頼むから明日にならないでくれと天に願ったものだが、当たり前のように朝はやってきた。
まあ朝がやってこなかったのだとしたらそれは生命の終焉を意味することになるし、流石に本気でそうは思っていない。
もし前世や来世なんてものが存在するならば、前世の僕はきっと今世の僕より地味で、今世の僕がその地味さを幾分かマシにしてやったと考えれば多少は気が楽になる。
そして来世の自分には、前世よりはだいぶマシな性格にしておいてやったぜと威張ってやろう。
来世の自分に威張るため--じゃなくて、来世の僕が少しでも楽に人生を生きられるように、どうせ上手くいかないだろうけど偶には頑張ってクラスメイトに声かけてみるか。
そんなことを考えていた僕だったが、学校に到着して教室の扉を開けた瞬間、そんな気は一瞬にして失せた。というか爆ぜた。
まるで高架下で電車の音でも聞いているのかというほどの騒々しさに、僕は一瞬立ち止まり教室に入るかどうかを逡巡してから、ここまで来て引き返すのもな、と自分の席へと向かった。
僕の席は一番後ろ側の中央の席で、会話に花を咲かせているクラスメイトの間を縫ってなんとか自分の席へとたどり着いた。
すでに会話の輪ができあがっており、会話に花を咲かせているようなところに声をかけることなんてできるはずもなく、僕はカバンの中から静かに小説を取り出した。
うん、やはり僕が何かを頑張ろうと思っても上手く行くはずがないんだ。
そして僕は前世もぼっち、今世もぼっち、そして来世になってもきっとぼっちのままなのだろう。
いいよ、僕は唯物論者でそもそも前世とか来世とかそんな非科学的なものは信用していない。
だから、前世より少しでもマシになろうとか、来世の自分に威張るために頑張る必要なんて無い。
それなら僕は腹を括って高校でも中学の時と同じようにぼっちとして教室の隅でひっそりとした今世を送ろうと、そう決意したのだった。
◆◇
入学式を終えた僕は、新たな友達を作ろうと躍起になっている人間たちの巣窟(ただの教室)から逃げるようにしてトイレへとやってきていた。
今朝はほんの少しだけ、来世の自分に顔向けできるよう少しでもマシな性格になるため頑張ってみるか、なんて考えていたが、入学式というのはやる気を出すにはあまりにも不向きな日だった。
何せ僕以外のクラスメイトも全員友達を作るのに躍起になっているのだから。
会話レベル1の僕がどれだけ会話を試みようとしたところで、僕よりレベルが高いクラスメイトしかいない状況では太刀打ちできるはずもない。
これならまだある程度クラスの人間関係が構築された後で、話しかけやすいグループに声をかけた方がよっぽどマシである。
まあ前世と来世の存在を否定しきっている僕は、1度きりの人生を僕らしくぼっちとしてひっそり生きることを決めたので、これ以上人と関わろうとすることなんて無いだろうけど。
そんなことを考えながら僕はトイレを出て教室に向かった。
「ねぇ
僕が教室に向かって俯きながら歩いていると、突然女子に声をかけられた気がした僕は顔を上げた。
僕の視界に入ってきたのは入学早々教室で大勢のクラスメイトに囲まれ、クラスカーストトップに上り詰めた超絶美少女、栗花落千吏だった。
教室で一番端の席に座り教室の中心にいた栗花落さんを遠目から見ていた僕は、確かに美少女だなと思いながら栗花落さんのことを見てはいたが、そこまで栗花落さんに人が集まるのはなぜだろうと疑問に思っていた。
しかし、こうして真正面から栗花落さんを見ると、クラスメイトが栗花落さんに集まっていた理由が理解できた。
目立ちはするものの主張しすぎていない蘇芳色の艶やかな髪は、編み込んで後ろで一つ結びにし綺麗に整えられている。
その綺麗な髪に負けない整った顔立ちや、まだ僕と栗花落さんの距離は2、3メートル程あるにも関わらず、僕のことを見つめているとはっきり分かる大きな瞳、そして華奢ながらもはっきりとわかるボディーラインは品性の無いものではなく奥ゆかしさが感じられる。
男子だけではなく女子まで集まっているのが不思議だったが、この可愛さは女子からも好かれるタイプのやつだ。
明らかに目が合っているとは思うが、これほどまでに可愛くクラスカーストトップに上り詰めた栗花落さんが僕に声をかけてくるはずなんてないし、きっと僕以外の誰かに声をかけたのだろう。
そう考えて僕は周囲を見渡すが僕以外に生徒の姿は見えない。
じゃあやっぱり栗花落さんは僕に話しかけてきたのか?
でも僕の名前は青谷ではなく只木なので、僕に話しかけてきているとは思えない。
そう考えてもう一度栗花落さんの方に視線をやるが、やはり栗花落さんは僕に視線を合わせてきているので、僕に話しかけてきていると考えるのが妥当だろう。
となると、栗花落さんは僕を青谷という別人と勘違いしているか、僕の名前を青谷だと勘違いしているかのどちらかになる。
名前を間違えることはあれど流石に顔を間違えることは無いような気がするので、前者ではなく後者だと考えられる。
いくら入学初日とはいえ人の名前を間違えるなんて失礼な奴だな。
そう思いながらも、僕は間違いを丁寧に指摘してやることにした。
「あの、僕青谷じゃないんですけど」
「知ってるわよ。只木理人君でしょ?」
「えっ? でも今青谷君って--」
「ねぇ、私のこと----明日見二梛のこと覚えてる?」
「……へ?」
僕は思わず気の抜けた声を出してしまった。
こんなに目立つ人間の名前を間違えるはずは無いので、彼女は明日見二梛ではなく栗花落千吏のはずだ。
それなのに栗花落さんは自分のことを明日見と名乗っている。
僕の名前を間違えただけなら、なんだ人違いか、と気に留めないこともできたが、自分の名前を間違えるとなると何か裏がありそうだ。
「その反応だとやっぱり覚えてないのね」
「……ひとまず君が僕の名前を間違えたり自分の名前を間違えたりしているのは置いておくとして、君のことは覚えてる--というかさっきまで同じ教室にいたし、あれだけ人に囲まれてたら忘れたくても忘れられないだろ」
「そっかぁ……。やっぱり覚えてないかぁ……」
「いや覚えてるんだが?」
僕の話聞いてたか?
ただでさえ会話をするのが苦手だというのに、ここまで話が通じない相手との会話は僕にはハードルが高すぎる。
「まあそうよね。覚えてるわけないわよね」
「だから覚えてるって言ってるじゃないか!」
「それにしたってまさか青谷君がこんな陰キャのぼっちに生まれ変わってるなんてね……」
「外見はまだいいとして性格はまだよく知らないだろ! あと生まれ変わるって何の話⁉︎」
「今世がこれじゃあ明日見さんも幻滅するでしょうね」
「ツッコミどころは多いがまずはその失礼な発言を何とかしてくれ!」
なんだこいつは。
僕が先程教室で見た栗花落さんは、自分の立場を確固たるものにするべく人当たり良さそうに笑顔を振り撒いていた。
そんな栗花落さんがなぜ僕に対しては失礼な態度をとったり、生まれ変わるとか前世とか不思議ちゃん発言を連発しているのだろう。
あーそうかわかった、クラスではいい子ちゃんを演じているが本当は性根の腐ったクソ女で、僕くらい地味なやつには本性見せたところで何の問題も無いと思ってるんだな?
はあはあ言わせておけば調子に乗りやがって! そうですよどうせ僕は誰にもテメェの本性を吹聴できない地味男ですよ!
おい僕、せめて何クソ精神で『snsでテメェの本性拡散してやる!』とか言ってくれよ。
「失礼にもなるわよ。明日見さんのためにようやく見つけた今世の青谷君がこんな陰キャのぼっち男になってるなんて……」
「さっきから前世だとか今世だとか生まれ変わったとかわけわからないこと言ってるけど何の話してるんだ?」
「……私、前世であなたと付き合ってたの」
「……は?」
栗花落さんの言葉に僕は一瞬時間が止まったような感覚に囚われた。
「正確には青谷君の方とだけどね。それに私とは言ったけど付き合っていたのは明日見さんだし」
「……ごめん、わけがわからなさすぎて理解が追いつかない」
「まあそうでしょうね。……はぁ。これからあなたみたいなぼっち男と青谷君の記憶を取り戻すために協力しないといけないなんて何の地獄かしら」
「じゃあ話しかけてくるな」
「なっ、なんでそうすぐ突き放すわけ⁉︎ なんとかして前世のこと思い出しなさいよ!」
「無茶言うな! てか思い出したとしても外見は変わらないからな⁉︎」
「そんなのわかってるわよ! あなたに求めてるのは青谷君の外見じゃなくて記憶の方だから。外見まで青谷君にしてくれとは言ってないでしょ⁉︎ ……好き」
「…………え?」
えっ、聞き間違いか?
今栗花落さんが僕に向かってSUKIって言ったような気がしたんだが。
いや絶対聞き間違いだろ、この話の流れで僕に向かって好きだなんて行ってくるはずがない。
いやでもこの距離で話を聞いてたら聞き間違うはずがないよな?
「なっ、ちがっ、美味しいすき焼きが食べたいなって言おうとしただけで--」
「その言い訳は流石に無理があるだろ」
漫画やアニメで不本意に好きという言葉を口にしてしまった場合に高確率で出てくるすき焼きで弁解をしようとしてくれてありがとう。
その言い訳では流石に僕以外の人間でもそれが事実ではなく言い訳だと気付いてしまうぞ。
「……ちょっとショックで頭がおかしくなってるだけで、誰があなたみたいなぼっち男に好きだなんて! ……大好き」
「--ちょっ⁉︎」
栗花落は『好き』だなんて言っていないと言いながら、次はその上位互換、『大好き』という言葉を口にし、僕に抱きついてきた。
「おいなんかその青谷君とやらに対する気持ちが漏れ出してないか⁉︎」
「あっ--。また私っ、ちっ、ちっ、違うんだからー!」
栗花落さんはそう叫びながら僕に背中を向けて走り去っていった。
かくして僕は栗花落さんと知り合い、きっと僕たち以外の人間は誰一人として歩むことのないであろう数奇な人生を歩むことになったのだ。
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高校デビューに失敗してぼっちが確定した僕、どうやら前世はイケメンだったようで、前世の記憶を持つ超絶美少女から『前世であなたと付き合っていた』と告げられた 穂村大樹(ほむら だいじゅ) @homhom_d
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