第26話 新たなスタート
「─────ん?何か変な夢を見ていたような……」
「どうしましたか? 悠雅さん。 急にふらふらしたと思ったら、そのままぼーっとして……」
ふと、気がつくとクローシス・フルフェイスさんと俺は話をしていた。
なぜそうなったのかを思い出す前に、何故だか分からないが────口をついてこんな言葉が出た。
「Sランク試験、受けさせていただきます!?」
自分で無意識にそんなふうに言ったあと、あまりにも不自然すぎるが故に声が裏返ってしまった。
「本当かね? 君のような素晴らしい能力を持った人間がSランク試験に来てくれることを私も嬉しく思うよ!」
「あ、えっと……いや今のはなんでそうい──」
「じゃあ、明日やる予定だったのだがねぇ? それを無しにして、一週間後に大々的に広告を打ってやろうじゃぁないか!!うんうん!今の所60%の冒険者の結果しか出ていないのだが一週間後なら90%を超えるだろう! そうすれば、もっと盛り上がるだろうねぇ!」
「……」
あぁ、しまった。これはもう言えない空気だ。
断るとか認めないって言うあまりにも容赦の無い圧力。
俺は結局諦めるほかなかった。
バシバシと肩をクローシスさんが叩いている。
もうそれに従うのが運命だったのだろう……。
「じゃあ君の家に、試験結果の紙をお送りしておくから───それを持って楽しみにしていてくれたまえではなぁ!、ハハハハハハハ!!」
そう言いながらクローシスさんは去っていった。
*
「……なんでかなぁ……? ぅぅむ……」
まぁそう言いながら自分も何故かほっとしているのが不思議だった。
「まぁいっか。 さてと、んじゃあ帰るか」
俺は家で待って居るはずの二人の為に早く家に帰ることにした。
まぁ何故かドーナツを買って行かなくてはならない気もしたが、理由が分からなかったので結局買わなかった。
というか自分だけ買って食べた。
大人の特権である。
****
「先輩おかえりなさい! あれ?……先輩、あの? ……ドーナツ、ドーナツは?」
「ど、ドーナツ?なんの話し? 別に俺はドーナツを食べて美味しかったとか、一人でドーナツを食べたとかじゃないからな?」
「ふうゥゥゥゥゥゥンンン? ……そっか。 じゃあその口元のチョコレートは一体?」
「?!ちょ、チョコが付いてたのか?ヤバっ」
慌てて口をハンカチで拭くが、そこには特に何も付いていなかった。
「───食べてないんですよね?せ・ん・ぱ・い?」
ずいっ、と圧をかけられる。
流石は梨奈。
美人だし、とってもいい香りがするし、何より熱かったので俺は目を逸らした。
「……?そういえば、ユナは?」
「先輩、ユナちゃんの話をして誤魔化そうってことですか? ユナちゃんならダンジョンのパンフレットを貰ってきたところです。 今日ダンジョンに行くって話だったじゃないですか? それをやりに行くんです!」
「えぇ……今日はもう疲れ────」
「行くんですよ。 行くんですよ、ね?」
「はい!喜んでぇ!!」
結局梨奈に押し切られ、俺はユナが帰ってきたあとダンジョンに行くことになってしまったのであった。
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