殺されかけた落ちこぼれの青年は女神様(邪神)の恩返しで1万年分の修行する事が出来て最強になったので自由に生きる

岡 あこ

第1話 プロローグ

この世界の人生の7割はスキルで決まる。

弱いスキルの人間の人生は悲惨である。

5歳ごろの発現したスキル次第でその後が決まるのだ。


帝国の外れの小さな街で、ひときわ目を引く美しい金髪の長い髪のスタイルの良い少女が畑に向けて手を振っていた。マリア、この辺りを支配する貴族の娘であった。「アー君、働いてるね。」そう言って手を振る方向には、安い服に身を包んだ12歳程度の青年が鍬を振っていた。


アーサーという大げさな名前を貰った彼は、小さな街で農作業に従事していた。といっても彼が出来るのは、簡単な肉体労働だけであり、身寄りもない彼の人生は絶望だった。スキルでの立身出世を諦めたが、平穏な生活にそれなりに満足していた。

「まあ、この程度しか出来ないので、お嬢様は何用で?」


「お嬢様って、昔みたいに、まあいいけどさ、ねえ、一緒にダンジョンに行かない?」


「無理ですよ。僕のスキルを知ってますよね。」

アーサーは、そう言うと手を挙げて少し先の小石を少し動かした。彼のスキルは念動力の一種であるとされたが、出来ることは小石を動かす程度であり、実質的にスキルがないのと変わりが無かった。それでも村の人は優しかった。


「大丈夫、私が守るから。」


「いや……足手纏いになるので」

アーサーがそう呟くと


「大丈夫、アーサー、俺もいますから。」

そんな体格の良い青年ガルシアが畑の向こうからやってきてアーサーを見て笑った。


アーサー、マリア、ガルシアは幼い頃から共に育った、だからアーサーは信頼していた。


「……簡単な場所であれば」

アーサーは、そう答えてしまった。




数時間後、アーサーは絶望していた。全身、傷だらけで死にかけで彼は死の淵に、崖の淵に立っていた。ダンジョンに入った3人は、今、分断されて別の場所にいた。

「……アーサー君には行方不明になってもらいます」

いや、正確に言えば、ガルシアと呼ばれる青年がアーサーを崖の淵に追い込む為にわざと分断されたふりをした。


「なんで、ガルシア」

アーサーは声を振り絞り、剣を向ける相手を睨みつけた。


「俺の名前を呼ぶな。雑魚が、雑魚のくせに、マリアと仲が良いのが気に要らないんだよ」


「……そんな、何も」

アーサーは絶望とマリアが関係していない安堵の気持ちを同時に抱いた。


「黙れ、お前のような雑魚は、死ね。マリアは俺のものだ。存在が不愉快なんだよ。」

そう言うとガルシアはアーサーを深い谷の底に突き落とした。


アーサーはその日から行方不明になったとされた。


気を失ったアーサーが目を覚ましたのはそれから何時間が経過した頃だろうか。彼は奇跡的に死んではいなかった。ただ、既に手遅れであった。


目を開けたアーサーは、少し驚いた。それは、今自身が生きていることに、そして暗く深い洞窟の中であるのに少し明るい事に。

動かない身体で辺りをキョロキョロ見渡すと、社のような物が目に映った。


「神様のご加護か。そんなもので多少延命しても、もう死ぬのに」

アーサーは、自身が助かった理由を神のおかげなのかなと思いつつ笑った。能力差や身分差を考えて話すのを控えていたが、どうせ殺されるならもっと、マリアと話しておけば良かったな、そんな後悔をしながらゆっくり目を閉じようとした。


「待つのじゃ、お主。延命したのだから勝手に死ぬでない」

聞こえるはずがない場所でそんな美しい声が響き渡った。


「……」

アーサーは状況が掴めないのか、ただ茫然としていた。


「お主、私が助けたのだから、少し助けてくれぬか。何とかして社の札を剥いでくれぬか?」

声はアーサーの混乱を無視して言葉を続けた。


「神様、いや悪魔ですか?分からないですけど。はぁ、まあどうせ死ぬのだからそのぐらいやってあげますよ。動けるか分からないですけど。」


アーサーは幻聴か、はたまた現実か分からない何かそういうと身体をやっとの思いで裏返し、社の方向を見た。それから起き上がろうとしたが、もうそれが無理であることに気が付いた。だから最後に右手を社の方向に伸ばした。


「僕のスキルがこれで良かったですね。神様、まだ可能性が残ってます。」

アーサーがそういうと離れた社の札が少し動いた。彼は今まで小石しか動かした事が無かったが、最後の最後に賭けに出た。


そして、最後にその賭けに成功した。札は社から離れて、社からは莫大な光が漏れた。

「初めから、石以外で試しておけば良かったな。それに気が付かないとか、ただの馬鹿じゃん。」

アーサーは笑って目を閉じた。


「助けてくれたお礼にお主を我が天使にしよう」

アーサーの耳には、そんな幻聴か何かが届いた。



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