淡々と告げる事実
「ねぇ、さっきから黙ってないで何とか言ったらどうなんだよ、兄さん!
だ・れ・の・お・か・げ・で、兄さんが今の立場に居られるかって」
「ニコラス、最終確認で『念の為に』に聞いておくけど、本当のお前が言っている事に俺が答えて良いんだな?」
「はぁ?」
「私は貴方の質問に対して、『本当に私の思っている事を答えていいんですね?』、と念の為に聞いてるんですよ!
この返答によって私はニコラス殿の質問に答えるかどうか決めようと思っていますので、よく考えた上でYESかNOの返答を頂いてもよろしいでしょうか?」
正直言ってニコラスの事は好きにはなれないけど、半分とは言え血の通った兄弟であるからかな?、最後の情けぐらいは掛けるべきと心のどこかで思ってる俺って、やっぱり甘いのかな?
しかし
「あのさ?何か偉そうに口答えしようとしてるみたいだけど、どうして兄さんがナルバエス姓を名乗れてるのか分かってんの?
何なら俺が父さんに掛け合えば、兄さんがナルバエスの性を名乗れないようにする事だって出来るんだよ。
そしたら兄さんはフローレス家に居られなくなるけどいいのかな?
だって帝命でフローレス家に婿入りするように指定されていたのは、『リカルド・ナルバエス』なんだからさ!」
ニコラスは勝ち誇ったように語るが、そんな事言われた所で、こっちは何とも思わないんだよな。むしろ「墓穴を勝手に掘ってるなコイツ」ぐらいにしか思ってない事さえ分かって無さそうだよね。
「……先程から私に挑発かつ私の品位を貶めるような数々の発言をしていますが、コレはニコラス殿が先ほど私が問いかけた事に対して『YES』の返事をした、という解釈として受け取りますが、よろしいでしょうか?」
俺は淡々とニコラスに最終確認を行うと、ニコラスは自信満々に頷く。
その顔は「はん、言えるもんなら言ってみろ! どうせ大した事も言えないんだろ」っと言わんばかりの自信満々表情だったが、こっちとしては言質さえ取れればいいので、ここから先は一切容赦する事なく俺も言いたいことを言わせてもらうおうかな。
「では許可を頂いたので、遠慮なく言わせていただきます。
まずニコラス殿が『誰のおかげで私がフローレス辺境伯家に婿入りする事になったのか?』、という問いに対しての返答ですが、コレに関してはニコラス殿のおかげでもなければ、ナルバエス家のおかでもありません。 すべては皇帝陛下のおかげでございます!
なんせこの婚姻は皇帝陛下がお決めになった事ですから、私と妻であるエステラは、『陛下のお陰で結ばれた』、と言う事になります」
俺が淡々とそう答えると、ニコラスは呆気に取られた表情を見せている。
これは俺がこんな答えを出して来るなんて予想もしていなかったから、無様に呆けた顔を晒しているんだろうけど、こんなの普通に考えたら誰だって分かる事だっての!
「そして私がナルバエス家の者である証のナルバエスの姓を取り下げて頂く事は構いませんが、私からナルバエスの性を今更取り払った所で、既に帝命は実行され終わっていますので、私がフローレス辺境伯夫君である事が取り消される事は今更ありませんよ。
ちなみにナルバエス家が私の性を取り消した場合、私の姓はナルバエス家に入る前の旧姓である『ウルタード』の姓に戻るか、このままフローレス家に入って『フローレス姓』を名乗るだけですので、私をナルバエス家の家系から外すのかどうかは、御父上とお好きなだけ話し合った上で、お好きに処理してください」
俺が淡々と事実を告げると、ニコラスは「ぐぬぬぬ」と言わんばかりのさぞ悔しそうな表情を見せているが、お前この状況が”そんな顔してる場合じゃない”って事に気が付いてないのか?
今俺達の周囲に居る人間の内の少数とは言え、俺の旧姓が「ウルタード」だと聞いてざわついている人間がいる事に!
お前の不要な発言で、自分の家にどう悪影響を与えるのかなんて気にもしてないんだろうけど、俺はお前に「思った事を正直に言っていい」っていう言質を大勢の証人となる人達の前で取っているんだから、この事が影響して今後ニコラス達ナルバエス侯爵家がどんな道を辿るかなんて、俺は一切興味ないけどね。
それにしても自分でも以外だったのは、正直
「そ、そんな事言ったって、兄さんが僕の代わりにド田舎にあるフローレス辺境伯家に婿入りした事実は変わりないんだ!
だから平民の出である兄さんが僕に態度を取る事自体不敬なんだよ!」
「そうですか、でしたら私を不敬の罪で訴えますか?」
「そ、そうだ! 不敬罪で訴えやるから覚悟しろ!!」
「でしたらこっちも黙っている訳には行きませんね。
まずは、大した根拠もなくフローレス家や妻であるエステラを貶めるような不敬な発言の数々に対する件、それにニコラス殿が言う『ニコラス殿のお陰で私がフローレス家に嫁いだ』と言う話も気になりますので、その件もこちらでしっかり調査した上で、フローレス家もナルバエス家を訴えさせて頂きますが、よろしいですね?
「そっ、そんなどうでもいい事調査した所で、何が分かるって言うんだよ!」
「ニコラス殿もご存じだと思いますが、私はナルバエス家で生活している際ほとんどナルバエス家から出た覚えもなければ、社交に参加した記憶も殆どありません。
そんな私が陛下の計らいとはいえ『どうして社交界で全く顔の知れてない者を、フローレス家に婿入りさせようと思ったのか?』、という事が非常に気になっていたんですよ。
なんせフローレス家に婿入りする際に初めて妻と出会ったというのに、『どうして私にこの縁が生まれたのか?』、と考えれば考えるほど妙な話だと思いませんか?
私としてもいくら考えても思いたる節がないこの婚姻の原因が、もしかしたら誰かが私の名前を偽って名乗り、社交界において私の名を勝手に広めた者がいるんじゃないのかと思いましてね。
もしそんな人間がいたら、勝手に人の名前を名乗った者にしっかりと”落とし前を付けさせるべき”だと、ニコラス殿も思いませんか?」
俺は無表情で淡々とニコラスに問い詰めると、ニコラスの表情はどんどん気まずそうな表情へと変わり、目が大いに泳いでいる。
(そんなに動揺してる姿見せたら、俺の言ってる事に大いに心当たりがあるって周囲に言ってるようなものなんだけどね)
しかし相変わらずコイツの「ざまぁない姿」を見ても何とも思わないし、俺の怒りの心は大して収まる様子を見せないんだよね?
てっきり俺はニコラスが好き勝手言ってくれる事に対して怒りを感じている物だと思っていたんだけどなぁ、どうやら俺の怒りが収まらない原因はまた別にあるようで、自分の事なのに今の自分の心境が分からにってのも、困ったもんだよね。
「こっ、この件は父上に報告しておくからな! 覚えていろよ!!」
俺が少し自分の心境について考えていると、アイツはそう捨て台詞を吐いた後、そそくさとこの場から逃げるように去って行くが、父親に報告したら何とかなるだろうという目出度い考えが、未だに本気通用すると思ってるんだろうね。
(ホント、何と言うかナルバエス家で一緒に暮らしていた時から感じてはいたけど、最初から最後まで俺に「小物」という言葉がピッタリ当て嵌まる印象を残す奴だったね。ニコラスって……)
小物が視界から消え去る姿を見届けた後、ふと俺はある事に気が付き恐る恐るほったらかしにしていた
そして俺が目を向けた先にいるあの人事エステラ様は、俺からそっぽを向くような形で大きく視線を外して俺の隣に立っていた。
(うわ……コレってもしかしてめちゃくちゃご機嫌斜めモード?)
やはり俺は盛大にやらかしてしまったようだ。
いくら相手があの小物とはいえ、当主であるエステラ様を差し置いた状況で。今後あの小物とやり合うという話を勝手に進めてしまうなんて。こんな事目の前で勝手にやられたら、当主としての面目丸潰れだよなぁ。
「あの……エステラ様?」
「……何?」
「もしかしてというか、もしかしなくても怒ってらっしゃいますか?」
「……別に怒ってないわよ」
「じゃあどうして俺の方を見て話してくれないんでしょうか?」
「別に、ちょっと向うに気になる物があったから……ただそれを眺めているだけよ」
エステラ様そう言うので、気になってエステラ様が顔を向けいてる方角を覗いて見るが、特にエステラ様が気になりそうなものは見当たらない気がするんだよね?
「気になる物ってどれです?」
俺はエステラ様が何に興味をもっているのか気になったので、エステラ様と出来るだけ視線を合わせようとしてエステラ様の顔の横に、自分の顔を近づけた。
「きゃ、ちょっと急に顔を近づけないでよ!」
俺がエステラ様の横に顔を近づけると、エステラ様は驚いた様子を見せると同時に、俺からそっぽを向けていた顔を俺の方に向けるが、その顔は赤く染まっていたので、俺も驚いてしまった。
「エステラ様! 顔が真っ赤ですけど大丈夫ですか?」
「あっ!、えっとコレは……ね」
「もしかして熱があるんじゃ?」
俺は慌ててエステラ様の額に手を当て、エステラ様に状態に異常がないのか確認しようとするが、俺が額に手を当てようとすると、目にも止まらな速さでエステラ様の手が俺の腕を掴んだ。
「別に熱があったり体調が悪い訳じゃないから!」
「じゃあどうしてそんなに顔が真っ赤何ですか!?」
エステラ様は俺が熱がないかチェックしようとした手を遮り、体調が悪い訳じゃないと言い張る。
(確かに目にも止まらぬ動きで俺の腕を掴んだんだから、本当に体調が悪い訳じゃないんだろうけど)
じゃあどうしてエステラ様の顔は真っ赤なのか? 俺がその理由に頭を悩ませていると
「だって……まさか公の場で……『妻』だって公言されるとは思ってなくて……」
「えっっと……まさかそんな理由で?」
エステラ恥ずかしそうにそう答える仕草と、エステラ様の発言とは思えぬ発言聞いてしまった俺は、思わず呆気にとられてしまう。
「どうやらこの時を持って本日の催しに参加する全ての者が揃ったようだな!
よって今日の催しの開催を告げるダンスを、フローレス辺境伯家の二人に踊ってもらおうと思っているのだが、構わないか?」
皇帝陛下から、本日の催しが開催される宣言を聞いて、俺とエステラ様は同時に我に返ったかのように表情を引き締める。
(うわぁ……どうやらエステラ様の意外な発言と仕草に驚いている場合じゃなさそうだね)
正直言ってメインイベントが始まる前に色々あり過ぎて、すっかり今日もっとも厄介だと思っている事がまだ終わてない事すら忘れてたよ。
さっき陛下から宣告された通り、今回の催しで俺とエステラ様は公衆の面前でファーストダンス踊んなきゃいけなかったって事を!
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