新任管理者とずさんな当主


 こうして俺はエステラ様より罰という名目で、屋敷の総責任者として管理を任される事になったのだが、コレってやっぱり罰じゃない気がするんだよね?

 でも雇用主が罰だと言っている以上、雇われてる側はその言い分に従うってのが、雇用関係の基本ルールなんで、余計な事を考えないようにしようと思う。

 (っというか、俺の思考回路ではエステラ様の思考回路は、到底理解出来ない気がするので、そこに関しては考える事を止めた!) 

 

 そして朝食が終わってから使用人達に、またまた集まってもらうとエステラ様から直々に

「本日よりリカルド・ナエバルスを、屋敷の総責任者に任命する」

 という宣言を頂いたのだが、それを聞いた使用人一同大喜びしてくれたので、エステラ様の言う通り、俺がこの3週間でやった事は、俺の想像以上に使用人達の信頼を得ていたみたいだね。


 正式に屋敷の管理を任されてから最初に驚ろかされたのは、屋敷の管理費として膨大な予選が俺の管轄に回ってきた事だけど、ミゲルさん達曰く

「これぐらいの金額、フローレス家の屋敷を維持する分と考えれば、全然少ないですね。

 正直『予算足りない』っと言って催促したって、絶対文句言われませんよ?」

 なんて言っていたが、俺には「この予算でどれだけ屋敷の管理が出来るのか?」っという事がサッパリ分からなければ、予想も出来ないので、とりあえずこの予算でどこまでやっていけるのか、やれるとこまでやってみようと思う。

 それに、「足りない場合は相談しなさい」ってエステラ様も言ってくれたので、無理な時は素直に頼りにさせて頂きます。


 こうして屋敷の総責任者としての生活が始まったのだが、意外な事に俺がやる事に大きな変化はなかった。

 っというか既に、以前この屋敷のリフォームで散々指示を出しながら動き回っていた際に、管理責任者として仕事と同等の業務を熟していたらしい。

 精々変化があったのは、屋敷の維持と管理の為に堂々と予算を使えるようになった事と、エステラ様に随時屋敷に関する報告を上げるために、エステラ様が騎士団の任務で屋敷を離れている時以外は、エステラ様に報告の為にエステラ様の執務室に良くお邪魔するようなった事。

 ついでにエステラ様が屋敷で食事する時は、一緒に食事するようになったぐらいだ。

 確かに一人の食事は嫌だと嘆いた時もあったけど、その事をエステラ様がそこまでして気に掛ける必要ないと思うんだけどな?

 まぁ、お陰で一人で食事する日が大分減ったんだけどね。


 そして屋敷の敷地全体の管理を任された事で、この屋敷の敷地内に駐在しているエステラ様が率いる騎士団であるインパクトナイツの訓練所と宿舎の管理も担当する事となった。

 ちなみにこのフローレス家の敷地内に滞在しているインパクトナイツの皆様は、インパクトナイツの中でも高い実力を持った騎士だけが、フローレス家内にあるインパクトナイツ第一支部に配属されるらしく、このフローレス家の敷地内にあるインパクトナイツ第一支部に配属されるという事は、騎士として相当な箔が付く事であり、騎士の現オールスターとも言える騎士が集まる騎士にとって憧れの場所でもあるとの事。


 ちなみにどうして精鋭中の精鋭騎士がフローレス辺境伯に集まってるいるかと言えば、フローレス辺境伯領は国境の中でも最も多くの外国に面している帝国の領地であり、国境線でもある以上、国の最も重要な国防の要の一つなのだ。


 だから国防に関わるいかなる有事が発生しても、即動ける強力な戦力を置いておく必要があるという重要な事実を、俺はこの件で始めて知ったよ。

 屋敷リフォーム作業を通して、このフローレス家の屋敷や、フローレス辺境伯領についてそれなりに知ったつもりだったんだけどね。

 実際の所は、まだまだ俺がこの屋敷の総責任者として知るべき事はまだまだある事を思い知ったし、せっかく大役を任されたってのに、もっと積極的にこのフローレス家の事について知って行かないと、任された大役は務まりそうにない現実を付きけられた気がしたから、この時ばかりは、ちょっとこの大役務める自信なくしそうになったよね。


 こうして新たに管理を担当する事となった、騎士団の訓練施設と、宿舎にお邪魔することになったのだが、フローレス家の屋敷が【綺麗なんだけど物が数世代前から停まっている】状況から、何となく「似たような状況になってるんじゃないのか?」という嫌な予感が頭の片隅に思い浮かんでいたが

 「流石に仕事に対して【超】が付くぐらい真摯に取り組んでいるあの方が、職場まで同じ状況にしていないだろう」っと思い直し、いざ騎士団の滞在場所に行ってみると……俺の嫌な予感の方が見事に的中してしまった!


 屋敷の敷地内にある騎士団の使用する施設と設備は、何処も綺麗に掃除はしてはあるんだよね。

 だけど、施設や設備の老朽化が大幅に進んでいるをほっとくってどうゆう事かな?

 その現状を見ても特に気にする様子を見せないエステラ様を見た俺は、思わず真顔でエステラ様に、「最強の騎士団が、何で小さな町の自警団の施設より酷い環境で生活してるんですか?」って本気でツッコんでしまった。

 この前相手に対する発言は考えて発言しないとダメ!って学んだばかりなのに、またやってしまったけど、そう考えたら……あれ? 俺って意外とエステラ様に対しては、言いたい事言っちゃてるけど、コレホントに大丈夫なのか?


 そんな俺のまた出た不安に反して、エステラ様は俺のツッコミに対して、素知らぬ顔をしつつそっぽを向くエステラ様……この人何気にホント良い性格してるよね?


 しかしですねエステラ様。物を捨てたり下手に買い替える事って使い続ける事って良い事ですよ?

 だけど使い続けるにしたって限度ってのがありませんか?

 だって多くの騎士が憧れている配属場所のベッドは激しく軋むわ、マットは穴だらけだわ、宿舎や訓練施設の床が素人大工による補修箇所だらけなせいで、歪な様子を見せているわで……

 ハッキリ言ってこんな環境で生活していれば、いくら屈強な騎士と言えど、「ふとした瞬間に床がやベッドが抜けて、騎士なのに文字通り足をすくわれちゃって大怪我しちゃったよ。エヘヘ」

 なんて笑えないジョークになりそうな事が、頻繁に起こってるんじゃないのか?って本気で心配になってくる状況だからね? コレって!

 

 とにかくこの現状は本当に色々な意味で不味いと思ったので、早急に業者を手配し、宿舎と訓練施設は早急に大改修させて頂きました。

 そしてある時、エステラ様に思わず「どうしてこんなになるまで放っておいたですか?」っと問い詰めてしまったんだけど、その際エステラ様より

「清潔を保って寝れたら、それで良いと思ったわ」

 なんてサラっとした回答を頂きました。

 いや、確かにソコを抑えていれば、ある意味生活の基礎部分は最低限抑えているのかもしれませけどさ。

 帝国民の安全を守る騎士団の環境が、常に騎士団に不意に怪我させる危険を伴っている環境で過ごしてるなんて本当に笑えない状況すからね?

 有事の際に緊急出動しようとしたら、ベッドや床が抜けて動けなくなってる最強の騎士団とか、見たら誰もがドン引きすると思いませんか?


 こうしてこの一件は早急に片づけたのは良いんだけど、この一件を処理してから、フローレス家に滞在しているインパクトナイツ第一支部の皆様より

「フローレス家に来てくれて本当にありがとうございます。旦那様のお陰で、やっと床やベッドの底が抜ける恐怖から解放されました。

 安心して廊下を歩き、眠る事が出来るようになる事が、こんなに素晴らしい事だなんて……」

 っと涙を流しながら本気で感謝されてしまったのだが、これも全部エステラ様が家の事に関してはポンコ……ずさん過ぎる所為なんですけど、第一支部の騎士様達は誰一人その事を一切口に出さないんだよね。

 うん……理由を探るとこの人達がロクな目に合う気がしないので、これ以上俺は何も聞かないし探らないでおこうと思うよ……


 ちなみに武具や訓練に使う道具一式に関しては、素人目から見ても分かるぐら良い物を使っていたので、エステラ様のお金を使う優先順位という物が、以前予想していたのが見事に的中してしまっていたのは、流石にこの惨状をみていると、ちっとも笑えなかったけどね。

 


「まさかこの屋敷で働く使用人だけではなく、第一支部の騎士達さえも手懐けてしまうなんてね。

 やはり私が見込んだ面白い男は、私を存分に楽しませてくれるわね」

 今日もエステラ様の執務室に、業務報告の為に訪れたのだが、開口一番にエステラ様が素敵な笑顔で俺を褒めちぎって来たけど、それに対して俺はノーリアクションかつ


「手懐けたと言うよりは、エステラ様の管理がが為に、俺が必要以上に感謝されているだけなんですけどね」

 思わずジト目をしながらエステラ様に業務報告書を渡してやるのだが、痛い所を突かれたエステラ様の視線は、珍しく泳いでいる。


「仕方ないじゃない!私としては宿舎なんて横になって寝れれば十分だし、壊れた施設は自分で修理する。

 それが野営訓練の基本なんだから!」

「訓練施設での訓練と野営訓練を同義として見ないでください!」

 俺のツッコミなど気にも留めず顔、俺が渡した書類の数々にエステラ様は目を通し始めるが、エステラ様は都合が悪くなると、時折こうやって誤魔化そうとするのが、一緒に仕事をしていて良く分かったんだけど、当主が屋敷の事に関してはこんな調子じゃ、ミゲルさん達使用人の3長の皆様は、この人の扱いにさぞかし苦労していのが、嫌というほど分かってしまったよね。


 訓練内容とか鍛錬、兵法といった騎士に関する仕事に対しては、素人目から見ても凄く理に適っているのが分かるし、天才ってこんな人を言うんだ!っと思わざる内容の仕事をするのに、興味ない分野に関しては、あと一歩足りないというか、所々抜けている姿を見ていると、以前エステラ様が


「私は弱くて自分勝手な人間よ」

なんて堂々と言い張っていた理由なんだろうね。

 そして俺はそんなエステラ様の事を「完全無欠の人間」と勝手に決めつけて見ていた。そしてその事をこの人が、キッパリと否定した理由も、今なら良く分かる気がするよ。


 世間には最強の騎士団を束ねる姿から英雄視されつつも、多くの敵を一方的に倒し続ける来姿から【狂剣】という恐怖異名を持つエステラ様にだって、苦手な物もあれば得意な物もあり、真面目に取り組む物事もあれば、蔑ろ気味になる事だってある。

 そして苦手な物事は誰かに頼ろうとするし、逆に自分が中心となって出来る事は、自分が前に出て率先してやり始める。

 そうやってエステラ様はエステラ様なりに、自分と周囲とで助け合って生きようとしている姿が、間近で見ていると良く分かった。

 もっともが上手く機能しなかったから、屋敷や騎士団の施設があの惨状になってしまったみたいなんだけどさ……


 そんな世間の評価通りの一面と、世間の評価とは全く違った一面。様々なエステラ様の一面も見せてもらって、俺はエステラ様が俺に伝えようとしていた事が、やっと理解出来てきたのかもしれない。

 結局の所エステラ様は

 『自分にだって良い部分と悪い部分。得意な事と苦手な部分を持った只の人間なんだから、同じ人間である俺が身分や生き方で卑屈になる必要はない』

 っという事を俺に伝えたかったんだろうね!

 って言っても、戦場で上げた功績の数々と、受けた勲章の数々の話を聞いたら、エステラ様はやはりとてつもなく凄い人でもある事に、間違いはないんだろうけどさ。

 

「これは……騎士団の備蓄食料の管理についての問題と新たな提案?

 どうゆう事かしら?」

 俺の渡した報告書に目を通していたエステラ様は、気になった点を見つけると俺に質問して来る。


「それは騎士団で管理している食料の管理が、先入先出の体制がしっかりと出来ていないが為に、騎士団の備蓄食料を、騎士団が無駄に捨ててしまっている事実が発覚しました。

 なので現在騎士団が管理する食料は、俺や本邸のシェフ達で本邸の食料庫で一緒に管理する計画を考えています」

「しかしそうなると、騎士団の食事はどうするのかしら? 毎回本邸まで必要な食料を取りに行かせるつもり?」

「そこに関しては、騎士団の宿舎から本邸の食堂までは大した距離もないので、この際騎士団の皆様にも、本邸の従業員食堂で食事を取ってもらった方が、騎士団の皆様も食料の管理と調理の手間が減りますし、我々としても備蓄食料の管理がやりやすく無駄な出費が減るので、フローレス家の財政と、騎士団の業務双方にメリットがあるかと思いまして」

 それに騎士団の皆様もこの屋敷の食事を食べてみたいって言ってからね。

 向こうは仕事の手間と美味しいご飯を食べれるようになるし、こっちはお金と食料を無駄にしないで済むし、見習いコックの修行にもなる。

 これこそお互いwinwinって奴じゃないのかな?


「しかしコレだと、屋敷のシェフの負担が大きくならないかしら?」

「そこに関しては料理長のホセとも事前に打ち合わせをさせて頂きましたが、今の調理場の体制であるなら、あと10人分プラスαぐらい作る量が増えても問題ないという返事をもらっています」

 実はこの件既にホセさん率いるフローレス家のコック一同に既に話は通している。

 なんでも今の人数体制での調理場の体制としては、エステラ様や俺。そして使用人全員分の料理を作るのであれば、かなり余裕がある体制が整っているし、ホセさん曰く

 「今この屋敷にいる見習いコック達にも今より少し忙しくなるぐらいが、いい経験になりますから」

 という返事も既にもらっている。

 

「なるほどね。

 でもこの体制だと騎士団が野営訓練の際に、勝手に食料を持ち出されても、管理側として困るんじゃないかしら?」

「そこに関しては、事前に野営訓練とその際使うであろう食料の予定表を事前にこちらに提出していただこうかと。

 事前の予定さえ分かっていれば、こちらは騎士団の野営訓練のタイミングに応じて食料を増やして対応しますし、騎士団の訓練スケジュールはエステラ様が既にしっかりと計画されていますので、今後も現状の決まっている先のスケージュールを、事前に教えて頂ければ、野営訓練が実施される日に、こちらで訓練に使う食料を、事前に準備しておけば騎士団も持ち出す手間が減るかと」

 コレに関してもエステラ様がしっかりとスケジュール管理を徹底して行っているから、騎士団の食料もこちらで纏めて管理出来ると判断出来た。

 エステラ様は屋敷の事に関してはズボラでも、騎士団の行身に関する事はかなり緻密な仕事をされるので、こっちとしてもかなり息を合わせやすいんだよね。

 あくまで、騎士団の仕事に関しては! ですけどね。


「正直言って驚いているわ。この屋敷に来て一カ月もたたないというのに、ここまでの仕事をやってくれるなんて。

 やるじゃない、貴男!」

「エステラ様の苦手な事を補佐するのが、俺の仕事ですからね」

「頼もしい事を言ってくれるわね。

 じゃあこの調子で私の代わりに屋敷に関する事は、どんどん貴男に一任していこうかし」

「そこに関しては、最終決定権はご当主であるエステラ様にありますので、俺に振ったとしても、また振り返しますからね!」

 エステラ様不機嫌そうな顔をしつつ、「別にそれぐらいやってくれても良いじゃない、ケチ!」っとでも言いたげな目をして俺にプレッシャーを掛けて来るけど、そこは当主であるエステラ様の仕事ですから。

 俺に一任しちゃダメな奴ですからね!

 じゃないと、名目上かつ期間限定の夫君である俺が、本当の夫君になってしまいますし、そうなると契約違反になっちゃって報酬もらえませんので、あしからず!

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