今までとは違う朝の始まり


「あら? 私がこの場に居る事に、鳩が豆鉄砲食ったような顔して固まるぐらい驚いてるみたいね。

 だからと言って、レディーが挨拶したっていうのに、ソレに対して何も返さないのって、ちょっと失礼じゃないかしら?」

「えっ? あっと……お、おはようございます。エステラ様」

 予想だにしていなかったこの状況を、まだ完全に冴え切っていない頭が処理できないで固まっている様子をエステラ様は面白そうに見つつ、やんわりと朝の挨拶ぐらいしたら? っと促してきたので、俺はしどろもどろしながら朝の挨拶をエステラ様に返した。


「あのー……どうして朝からこちらに?」

「どうして? だってここは私の家なんだから、私が私の家の食卓で朝食を取るなんて当たり前の事でしょ?」

「いえ、そうゆう事じゃなくてですね……どうして俺と一緒のタイミングかつ同じ部屋で朝食を取ろうとしてるんですか?」

「なんでもこの屋敷で働く者の中に『一人で食事をするのは寂しい』と嘆いている人間がいるという噂を小耳に挟んだのよ。

 そんな不満がこの屋敷で出ているのであれば、当主としては放っておく訳にはいかないでしょ?」

 だから私が一人で食事は嫌だと嘆いた者の為に、一緒に食事をとってあげようっと思っただけよ。

 それとも私と一緒に食事をするのは不満かしら?

「いえ!決っっっしてそのような事は」

「だったらいつまでもドアの前に立っていないで、こっちに来て座ったら?」


 まさか俺が嘆いていた事をこんな形で拾ってくるなんて……してやられた気分だね。

 というかコレって態々報告する事かな? ちらっとミゲルさんに視線をやると涼しい顔して立っている。あの人絶対ワザとこの事教えなかったな!

 ミゲルさんにジト目に負念込めて送ってやるが、ミゲルさんに俺のジト目は全然効いていないようだった……


 俺はエステラ様の指示に従って食卓に座り、テーブルに目をやれば、いつも通りの朝食がテーブルに並んでいるんだけど、このメニューって俺お一人様用のメニューだよね?

「あれ?エステラ様も俺と同じメニューで良いんですか?」思わずエステラ様に聞いてしまうが。

「ええ。私もいつも朝食は食べきれないで残していたから。

 それにお前が考案したメニューというのも、気になっていたから」

「ちょっと料理人たちに提案してみただけで、考案したというほどの物でもないんですけどね」


 実は朝食というかこの屋敷の食事に関して俺は、シェフの皆様にせっかく色んな地域から人が集まっているのだから、偶にはその地域の郷土料理のような物を出してみてはどうかな?っという話をすると、案外料理人の皆様は俺の案に乗ってくれて、この屋敷で働く人達の故郷の味を思わせる料理を日替わりで出しつつ、どの料理が好評だったかアンケートを取った際、朝食に関してはなんと俺の「貴族としては質素メニュー」が一番好評だった。

 なんでも朝が弱い人間でもアッサリ目の味付けは食が進みやすく、栄養や味のバランスも良いから日常的に食べやすいとの事で、朝食は俺の食べている朝食がこの屋敷の定番になりそうな雰囲気だったけど、まさか当主にまで興味を持たれるなんて、世の中事がどう転ぶかホントに良く分からないよね。


「確かに食べやすい味付けの物が多くて食べやすいし、手早く済むから時間のあまりない時にも良いわねこのメニュー。

 でも私としてはもう少したんぱく質が欲しいから、肉料理の量を少し増やして頂戴」

「畏まりました。次からそのように致します」

  エステラ様も俺の愛するメニューにはそれなりの好評価を示しつつ、エステラ様の要望をミゲルさんに伝えているのを見ると、このメニューの発案者としては当主に受け入れられたというのはちょっと嬉しかったりもする。

 しかしエステラ様の食事量って、男の俺より多めに用意されてたような? それでも足りないって良く食べるよねホント。

 やっぱり騎士ってそれだけエネルギー使う仕事なんだなー。

 うっかり食べ過ぎて太……あっぶね。今絶対女性に対して絶対考えちゃいけない事が頭を過りそうな

った!

「お前今、私の事でくだならない事を考えていなかった?」

「滅相もございません!」

 俺だって女性に対して思っても考えてはいけないタブーはくらいは知ってるからその事は口には出さないし、出来るだけ考えないようしてるけどさ。

 どうして女ってこうゆう時だけ鋭いんだろうね?


 こうして朝食に関する談話を挟みながら、俺とエステラ様は食事を終えた。

 まさか嘆いていた”毎日お一人様のお食事会”が、こんな形で解消されるなんてね。

 って言っても俺を揶揄う事に喜びを見出してるS気強めのエステラ様としては、俺の望みを叶える事なんかより、俺が戸惑う様子見れてさぞかし愉快なんだろうけどね。

 まぁ俺のしょうもない嘆きを配慮してくれた事に関しては、多少は感謝してますよ! 多少は!


 なんて負け惜しみを心の中で言ってみたが、そんな事しても、エステラ様に対して昨晩の出来事に関する靄が晴れないためか、いつも美味しいと感じる朝食が何処か味気なく感じたし、食事中エステラ様に自分から話題を最初の一言以外振る事が出来なかった。

(この靄を少しは晴らさないってのは、たった2年とはいえ、この屋敷でエステラ様達と生活していくなら、解消しとかないといつまで経っても俺はこの靄に引きずられるって事だから、それはちょっと良くないよな?)

 要はこうゆうの心の蟠りってのを、何時までもズルズル引きずってるから、昨晩エステラ様に言われたように、自分に対して自信も持てなければ、自分の不幸な環境を引きずり続けていたんじゃないのかと俺は思った。

 

 だから「今の自分が嫌なら、今の自分を変える努力を出来る範囲からやってみろ」とエステラ様から言われた以上、今の自分を変えるための一歩としてエステラ様に俺の心の靄をハッキリ伝えておこうと思う。


「エステラ様。少しよろしいでしょうか」

「急に改まってどうしたのよ?」

「昨晩は契約主であり雇い主でもあるあなたに、大変失礼な事を言ってしまった事。

 そしてあなたに大して八つ当たりのような決して向けるべきではない感情を向けてしまった事を、改めて謝罪させて頂きます。

 この件に付きましては、俺はエステラ様からどのような罰を課せられたとしても、それを受け入れる覚悟です」

 俺はエステラ様に込めれる誠意全てを込めて、昨晩の出来事にかんする謝罪の言葉を送った後、俺は頭を深く下げた。

 正直言ってエステラ様の様子を見る限り、エステラ様にとって昨日の事なんて、なんて事ない事だったんだと思う。

 でも俺にとっては、色々と考えを与える切っ掛けを貰ったからそうじゃないんだよね。やっぱりさ、何か貰ったからには何かを返さないと失礼じゃない?

 だから今俺がエステラ様に謝罪してるのも、何か罰という形で「エステラ様に返せるモノがないですか?」と聞いているのも、己が納得する為の自己満足でしかないのかもしれないけど、このまま何もしないのは、せっかくもらったアドバイスを無駄にしてしまう気がした。

 【とりあえずやってみて駄目なら、次はどうしたら上手く行くか考えてまた試してみろ】

 コレも昨晩エステラ様に諭された事で、真剣に考えた事も無かった事だから、実際にやって自分にどう効果があるのか知って行こうと思う。


 そんな様々な個人的な思惑が混じった俺の話を聞いたエステラ様は、「アハハハハ」とそりゃ大変可笑しそうに笑っているから、どんな対応されても甘んじて受け入れるつもりではいるけど

(人の気もしらないで爆笑しやがって! この野郎!!なんて気持ちもない訳じゃないのは、ここだけの話)

 そもそも事の発端は俺だったんだから、今は何言われたって黙って聞くだけさ。


「アハハハハ! お前、まだ昨夜の事気にしてたの? 私としては昨日のうちにもう終わった事にしたつもりだったのだけど。

 大体私が、お前にちょっと妬みや僻みや嫉妬の混じった視線を向けられようが、私に対して失礼な事を言われたぐらいで、私が不快に感じるなんて思う?

 悪いんだけどお前のやった事なんて、社交界や戦場で私に向けられるどす黒い負の感情の籠った熱烈な視線や、容赦なく浴びせられる殺意や恨みのの籠った数々の馬頭に比べたら、お前のやった事なんて正直柔らかい布で頬を小突かれた程度にしか感じないわよ?」


 あ……そういえばこの人、社交界から実戦まで、幾つも戦場を渡り歩いてきているとんでもない猛者だった!

 そんな人に俺のような元は平民の出であって、凄みも持たない人間にちょっと睨まれようが、文句言われようが屁でもないってか。

 あれ?そう考えると俺ってとんでもない人に喧嘩売ってたって事だよ……ね?? ヤバイちょっと変な汗が出て来た……

 今人生で初めて、今日この日まで無事生きてこられた奇跡に感謝したかもしれない。

 これからは喧嘩を売る相手は良く見極めて、もっと命は大切すべきだって心から学ばさせて頂きました。


「でも、お前が罰を受けないと気が済まないというなら、とびっきりの罰を与えてあげても良いけど、どうする?」

「どのような罰でも構いません。俺に出来ることあるなら是非!」

「では、お前の望み通り、お前に罰を与えるわ!

 今日からお前は、この屋敷の総合管理業務に携わりなさい」

「わかりまし……いや、ちょっと待ってください! どうしてそうなるんですか?」

 いや、可笑しいよね? 普通罰って言ったら肉体的にも精神的に答えるアレな罰だったり、報酬減らしたり、この屋敷から出て行け。ってのがセオリーだよね?

 雇われている側の人間のからしたら、いきなり管理職のトップに昇進って、むしろご褒美じゃありませんかね?

 一体何をどう考えたそうなるんでしょうか? エステラ様~!

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