思いがけない提案

 とりあえずエステラ様の話を聞く限り、俺と同じようにエステラ様にとってもこの状況は望んで生まれた状況って訳じゃない事は良く分かったので、今すぐ逃げ出したい状況だが、頑張ってもう少しこの耐えてつつ様子を見るべきだ! っと、今まで一度も頼った事のない俺の第6感が告げている気がするね。

 こうなったら当てになるかも分からない第6感を信じて、もう少し様子を見る事にしよう。


「さて、フローレス家に来て早々。結婚したくもない相手に散々な事を言われ、キサマも私同様さぞ鬱憤が溜まって仕方がないだろう。

 しかしそんなお互い鬱憤しか生まれていない私達の関係だが、この関係を穏便かつ法的にも真っ当な方法で終止符を打つ方法がある。

 要は帝命で強制的に結婚させらようが、この帝国には確実かつ合法的に離婚できる方法があるのを、キサマは知っているか?」

「えーと、確か結婚した夫婦は、2年間お互い情夫、愛人を作る事なく世継ぎが生まれなかった場合は、合法的に離婚が認められるんでしたっけ?」

「その通りだ!

フフフ。帝国史上最低の女たらしは、どうやら男女が絡む法律に関する事してだけは明るいようね」

 いや、普通に帝国法を勉強してたらそれぐらい誰でも頭の片隅に入れてる気はするけどね!

 だけど待てよ?あくまで予測だけど、弟のニコラスが社交界でやらかしてる姿を想像したら、そう思われても仕方がない気がしてきた。

 なんせニコラスは大の勉強嫌いで、全く勉強してなかったかなぁ……きっと社交でも馬鹿丸出しの発言してたんだろうね。


 思い返せばニコラスは学園のテスト日になると、顔だけは瓜二つだからと言う理由で、俺を替え玉として学園に行かせ、俺がアイツの代わりにテスト受けさせられてたぐらいの勉強嫌いだったし、自分の名前さえバレなければ大丈夫と本気で思ってるからか、何かやらかした時はとりあえず俺の名前を名乗って全部俺に都合の悪い事は押し付ければ何とかなる。って本気で思ってたぐらいだし。


 どうせ社交活動においても、度重なる馬鹿丸出しの発言と行動を繰り返し、都合が悪くなると

「今までやらかして来たことは、実は顔が瓜二つである兄がニコラスを名乗ってやっていたんだ」と言いふらし、ニコラスによって作られた身に覚えのない謎の責任を取るのが俺の役目だった。

 そう考えると、今俺に向けられているエステラ様のゴミを見るような目が、ニコラスの社交活動の全てを物語っているようなもんだよね。


 って、ちょっと別の方向に思考が働いちゃってたけど、エステラ様の言う通りこの帝国における離婚は、基本的に法律で禁止されているから、帝国民にとって離婚って、割と実現させるの難しい事なんだよなー。

 例外的措置も偶にあるにはあるけど、それも結婚を機に互いが酷い生活を送る事になったり、夫婦の何方かが一方的な暴力や誹謗中傷を受けているなどして家庭に大きな問題が起きていたり等、帝国から問題があると見なされなければ成立しない事なので、実はこの帝国において滅多な事では離婚は成立しないんだよな。


 しかしこの帝国は、直系の跡継ぎを重視する傾向が強いためか、直系の跡継ぎが生まれる見込みがないと帝国から判断された場合、唯一かつ確実に離婚が成立するハズなんだよな。

 それこそエステラ様の言う結婚して二年の間にお互い愛人を一切作らず、嫡子が出来なかった場合に限って、申請すれが合法的かつ確実円満に離婚が認められる唯一のケースなんだよね。

 ちなみに愛人との間に子供が出来た場合、愛人が正妻もしくは正夫になって簡単に離婚出来ないから、『お互い愛人を作らないようにしろ!』、っていう言い合いがあるんだけどね。


 しかし結婚して早々、円満で合法な離婚の話を切り出された男なんて、この世界で俺が最初か?

 コレってもしかして偉業の証? それとも男としての立ち位置としては微妙な証? うん、変に考えるのは止めよう。なんか考えてて虚しくなってきたし……


「つまりキサマが2年間女を求める事さえ我慢出来れば、その後私達はお互い自由の身になれる。

 当然この案に乗ってくれるわよね?」

 厳しい口調と共に、エステラ様の背後から【ゴゴゴゴ!】という文字が噴出していそうなレベルのプレッシャーを纏っている。

 しかし円満離婚の提案をするエステラ様の姿勢は、円満とは程遠い不穏な空気を纏っていると感じるのは気のせいなのかな?

 そんなエステラ様から出された不穏……じゃなくて、平穏かつ円満な離婚の提案に対して、もろろん俺は「はい」と即頷いて、エステラ様の提案を快く承諾する意思を示したよ。

 そもそも俺は弟の尻拭いとして、強引かつ逃げられてない圧力でフローレス家に婿入りさせられただけだから、エステラ様の提案は俺とっても非常にありがたい提案なんだけどね。


 「よろしい。キサマが私の計画を前向きに捉えてくれた事を、私は素直に嬉しく思うわ。

 そしてこれは私と貴様が、これから離婚までの2年間の間に結ぶべき契約内容だ。

 良く目を通しておいて」

 そう言って契約書を俺に渡すエステラ様の姿は、先程よりホッッッンの少しだけ機嫌が良さそうだ。

 そんな様子を見ちゃうと、エステラ様もよっぽどこの結婚が【嫌】だったんだね。

 正直俺も色んな意味でこの結婚は嫌だったから、結婚して早々離婚話が出たのは何だかんだ行って嬉しい事なんだけどさ。

 とりあえず渡された契約書に一通り目を通してみる事にしますか。



「何か不満はある?」

「いえ。要は俺が『2年間女性に手を出さないで、大人しく屋敷で過ごしていれば円満に離婚成立』って話ですよね?」

「要点だけ言えばそうなるが、果たして貴様にが出来るの?」

「俺だって命は惜しいので、やってみせますよ」


 エステラ様との契約内容を簡潔に述べれば

 【俺が女に手を出して離婚成立出来なくなったら即殺っちゃうから☆】 なんて物騒な内容だった。

 特にこの屋敷で働く女性にでも手を出した場合は【問答無用で即殺る!】と遠回しに書かいる事に気が付けば、誰だって性欲なんて物は嫌でも也を潜めると思うんだけどさ?

 そもそも俺に、女と火遊びしたり危ない橋を平然と渡れる弟のような度胸なんてないんですけどね。

 しかしこの契約条件って、間違いなく女たらしのニコラスを合法的に殺る為だけの契約内容な気がしてならなかったよね。良かったなニコラス。俺が身代わりで……

 きっとこの状況を作った本人は、今日か明日にでもこの世を去っていたんじゃないのか?

 もっともこの状況を踏まえば、今後何があったとしても、もうお前の尻拭いを俺は二度としてやれないんだろうけど、あいつはこの先上手くやっていけるのかどうか一切考えた事もいないんだろうけど……

 ってあんな弟の事を心配するより、今は自分の命の心配をしなきゃいけないんだけどね。


「いくら最低な女たらしと評される貴様も、目先の欲より自分の命を優先させる判断力ぐらいはあるようね。

 もっとも私としては2年も我慢したくないから、貴様がさっさとポロを出し、この結婚生活に一日でも早く終わりが訪れてくれる方に期待しているわ」

 エステラ様はとても良い笑顔で、とんでもなく物騒なの一言を俺に向かって投下してきた。

 そして相変わらず目が全く笑ってないもんだから怖いんだってこの人。


 これはマジで俺が契約に違反する事を仕出かした瞬間、俺の首を切り捨てる気満々なんだろなー……

 こんな契約を平然と結ばせる時点で、エステラ様の気に食わない奴はサクッと殺るスタンスってのを犇々と感じる……やっぱり狂剣の異名ってのは、伊達ではないって事だね。


「あはは…俺としてはそんな結末だけはゴメンですけどね。

 それに離婚後フローレス家を出る事になっても、外で暮らすには十分過ぎる報酬まで頂けるなら、この契約キッチリ果たすつもりですよ」

 二年後に俺とエステラ様の離婚が成立した場合の報酬として、金貨も40枚も支払ってくれると契約書に記載されているのを見つけた瞬間、俺はこの契約を絶対無事に果たすと心に誓ってしまった、


 契約内容では、離婚までの二年間衣食住は保証されるみたいだし、離婚後も俺みたいな婚外子に平民の生涯収入以上の金額である金貨40枚も払ってくれるなんて、俺からすると太っ腹過ぎる提案なんだよね。

 実はエステラ様って用が済んでもちゃんとお金を準備してくれてるって事は、案外色々気を使ってくれる人間なのか?

 巷じゃ狂剣なんて呼ばれてても、その本質は案外慈悲深い人なのかも? なんて思ったぐらいだ。


 そんな慈悲深いエステラ様の真意は、俺みたいな紛い者の貴族には測りかねないけど、俺からしたらこの契約、実は願ったり叶ったりの内容だった。 って事。

 これから2年間。俺は只つつましく、大人しく生活さえしてれば、今後安定して暮らすための資金が手に入るって分かった俺の表情は、恐らくフローレス家に来てから一番の笑顔だったんだろうね。

 その証拠にこの場にいるフローレス家の人達が、「どうして急にそんなに笑顔なったんだ?」とでも言 いたげな目で俺を見ている。

 もしかして金貨40枚って辺境伯からすれば、はした金だったり?

 もしそうだとしたら、稼ぎのしっかりした方達には、この契約が俺にとってどれだけ魅力的なのか理解出来ないのかもしれないね。


 しっかし、さっきまでエステラ様の威圧感にビビりまくっていた俺の心は、大きく変わり、フローレス家に来た当初の鬱寄りの気持ちがいつの間にかすっ飛んでしまっていた。


 先の希望の見えた俺は、素早く契約書にサインを済ませると、エステラ様に心から感謝の笑顔を提供しつつ、契約書を渡したんだけど、そんな俺の姿を見て、エステラ様や側近の人が意表を突かれたようで、今エステラ様たちが俺に向けいる表情は、まるで理解出来ない行動をする何かを見ているような顔していた。

 いくら俺が平民だからと言って、そんな顔で見るのは失礼なんじゃないのだろうか? なんて思ったけど、どうせ俺の言葉なんてお偉いさまの耳にも入りはしないんだろしうな。

 

「…よろしい。ではこれで私エステラ・フローレスとリカルド・ナルバエスの離婚契約は成立という事で。

 円満な離婚が成立するまでの2年間。よろしく頼むわ」

 エステラ様が手を差し出してきたので、どうやらこれで円満離婚同盟結成の証でも刻もう。って事かな?

 この差し出されたエステラ様の手の意味が、そうだろうと解釈した俺は、エステラ様から差し出せれた手をしっかりと握り返す。

 こうして俺とエステラ様の離婚契約が成立したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る