シオンに祈る

秋澄

第一章 少年と魔女

プロローグ

 暗い森をひたすら走る。

木の根が足に絡みつきもつれようと、そばの茂みから獣の遠吠えが聞こえようと、それでも走る。


 道なんてものは初めからなく、ただ目の前に向かって走る。

けれど一向に森を抜ける気配はない。


 どれだけ走っただろうか。

喉が渇いたため川の水を口に入れ一息ついていた時、川上の方に光が見えた。


──ああ、見つけた。


 その光に一縷の望みをかけてまた走る。

川沿いをたどり、近づくにつれその光は大きくなる。


 息も絶え絶え、ようやくたどり着いたのは一軒の家だった。

煙突からは煙が出ており、家の中に家主がいることがわかる。


 途切れる息を整える。

早まる心音を抑えるようにぎゅっと左手で胸元の布をつかむ。

開いた右手は握りしめ、思い切り扉にぶつける。


ドン ドン ドン


 少しすると家の中から扉に近づいてくる音がする。

急に怖くなって後ずさるけれど、扉はすぐに開かれた。


 目の前に現れた女性はただじっと少年を見つめる。

言葉を発することもなければ表情が変わることもない。

ただ彼の次の行動を待っている。


 そして、少年は尋ねた。


「はじめまして。貴女が、僕の母親ですか?」

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